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〈目からウロコの健康術〉 痒みを放置しないで皮膚のトラブルを解消 高齢者の冬の「乾燥肌」対策はコレだ!

「体が痒くて堪らん。どうにかならないか!」

 東京都内に住む男性(55)は、毎晩、風呂上がりにスネ(ひざ下)や腰回り、脇腹に保温クリームを塗る。細長い道具をつかって背中にも塗る。頭が痒くなる頭皮には、よりさらっとした保湿ローションを塗る。

 これは4、5年前、体のあちこちが痒くなったからだ。気持ちがいいので気が済むまでぽりぽりかいていたら、皮膚が傷つき、炎症が起きてしまったのだ。

 近くの皮膚科医院を受診すると、皮膚の乾燥が原因で起きる「皮脂欠乏性湿疹」と診断された。炎症を抑えるステロイドの塗り薬と、痒みを抑える飲み薬で治療を行った。

 以来、皮膚科医の指導に従い、皮膚の保温を心掛けているが、「乾燥しやすい寒い時期、ポカポカした布団に入ると痒みが生じやすく、寝ている間に無意識のうちにかいてしまう」と男性は苦笑する。

 都内にある木下皮膚科医院の木下ちとせ院長はこう説明する。
「かくと皮膚が痛んでバリア機能が損なわれ、炎症が起き、さらに痒みが強まり悪循環になってしまう。ですから痒くならないように皮膚を保温し、かいても重症化する前に治療して悪循環が起きないようにする。そうならためには予防と早めの治療が効果的です」

 また、これらに加えて冬場などの乾燥期は、衣類がこすれるなどの摩擦や厚着による締め付けなども、乾燥肌を悪化させる原因となる。さらに、風呂で体を洗うことや、風呂上がりにタオルで体を拭くことすら大きな刺激となり、肌が赤くなったり、皮が剥ける、粉を吹いたり、ひび割れなどの「乾皮症」と呼ばれる症状が出てくることがある。

 この状態を悪化させると、眠れないほどの痒みや水膨れなどの湿疹まで出てくる「乾燥性皮膚炎」の一種である「皮脂欠乏性湿疹」となることがある。これは冒頭の男性と同じ症状だ。
「健康な皮膚というのは、自ら分泌する皮脂が表面を覆い、水分の蒸発を防いでいる。角質層の細胞には水分を保持しているアミノ酸類などの“天然保湿因子”があり、角質細胞同士の間にあるセラミドなどの“角質細胞間脂質”も皮膚の細胞を守るといわれます。このような皮膚の潤いが、皮膚のバリア機能を保つのに重要です。加齢とともに皮脂や天然保湿因子、角質細胞間脂質は減り、皮膚が乾燥して表面の皮脂膜や、その下の角質に隙間ができたり剥がれたりします。このことで、バリア機能が低下し、外部の刺激に弱くなり、炎症が起こります。それが皮脂欠乏性湿疹です」(前出・木下院長)

 この皮脂欠乏性湿疹が一番できやすいのはスネ部分だ。他に太ももや腰の周辺、脇腹、背中の下あたりにもできやすい。
「これは他の部位に比べてもともと皮脂の分泌が少ないためです。逆に顔や背中の上部など、ニキビの出来やすい部位は皮脂の分泌が比較的多いので、乾燥による湿疹はできにくいのです」(専門家)

 バリア機能の衰えを補うには保温が基本となる。保湿剤には、ワセリンのような水分の蒸発を防ぐタイプと、水分と結合して皮膚の水分保持をする働きのあるヘパリン類似物質や尿素が入っているタイプがある。夏でもエアコンなどにより皮膚は乾燥するので、保湿は原則として一年中必要だ。
「泡状や液体状など保湿剤にはいろいろあります。自分の皮膚との相性や、皮膚の状態をみて、使う保湿剤の種類や量を決めて貰いたい。風呂から上がり5分以内の、皮膚が湿っている間に塗ると、より効果的です。また湯の温度が高すぎると、皮膚の皮脂や角質細胞間脂質が必要以上に奪われてしまう。湯の温度は38度ぐらいにとどめておくほうがいいでしょう」(同)

★高齢者は紫外線にも注意!
 一方、入浴時に使う石鹸についても気をつけたい。原則的に洗う部分は、脇の下と股周辺だけ。タオルを使わずに手で石鹸を泡立てて洗っている人もいる。特別に体が汚れたとき以外は湯で流し、手のひらで軽くこするだけで十分。中高年になったら、必要以上に皮膚をこすったり、皮脂をとったりすると、バリア機能が損なわれてしまう。
 皮脂欠乏性湿疹と診断された患者の中には、ナイロンタオルで体を洗うのをやめたら、症状が改善した人も少なくないという。
 ただ、この場合も皮膚のかゆみや発疹は、皮膚の乾燥だけが原因で起こるわけではない。糖尿病や肝臓病、内臓のがんの原因となることもある。
 前出の木下院長は「保湿をきちんとしても痒みが治まらない場合など、早めに皮膚科専門医を受診してください」とアドバイスする。
 人は齢を重ねると免疫の働きが乱れ、自分自身を攻撃して起こる自己免疫疾患の一種、「類天疱瘡」も増えるといわれる。この病気は、皮膚に水ぶくれやじんましんのような腫れが起きることもある。
「治療の基本は免疫を抑えることです。しかし、高齢者は免疫を抑えすぎると肺炎など重篤な病につながる恐れがあるので、1人1人に合う方法を個別に考えます」(同)
 最近、糖尿病治療薬の一部が原因で類天疱瘡が起こることも分かってきたが、注意しなければならないのは、他のさまざまな薬が原因で皮膚の炎症が起きることも高齢者には多いことだ。
 東京労災病院皮膚科・林恒久医師はこう語る。
「高齢者は複数の薬を飲んでいることが多い。そのため急に薬をやめると危ない場合もあるので、慎重に原因を探す必要がある。年をとると紫外線が皮膚に与える影響もある。紫外線が蓄積し、皮膚がんにもなりやすくなります。他に、基底細胞がんや扁平上皮がんなど数種類あって、それぞれ悪性度も違うので詳しい診察が必要になる。早く見つけて早く治療すれば、転移も防げるし治療も出来ます。急に皮膚が赤みを帯びて膨らんできたり、急に黒い点ができて不規則に広がるといった変化を見逃さないことが、早期発見には欠かせないです」
 皮膚は、栄養状態を反映する。がん発見のためだけでなく、自分の健康状態をチェックするためにも、時々は全身の皮膚状態を観察する必要があるのだ。
 自分では見えにくい部位もあるので、5年に1度ぐらいは皮膚科を受診し、チェックして貰ってはどうだろうか。

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