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全国規模で“相乗り”OKに動き始めた タクシー業界に渦巻く期待と不安

 2020年開催の東京五輪時には、外国人観光客急増でタクシー台数不足が予想される。そのため国は現在、地方で限定的に認められている1台のタクシーに複数の利用客が乗り合わせて運賃を割安にする“相乗り”を都市部でも認める方向に動き始めている。

 “相乗り”の仕組みは、タクシーを予約するためのスマートフォンアプリを活用し、行き先が近い利用客同士を引き合わせ、近い順番に降ろしていくというもの。
 しかし、この取り組みについては、タクシー業界で期待と不安が渦巻いているのだ。
 「今、タクシー業界は不振にあえいでいる。バブル崩壊、そして、リーマンショック後、利用者が年々減少しているからです。相乗りが可能になれば、長距離の利用客が増加する可能性があり、タクシー業界には追い風になります」(業界関係者)

 確かに、タクシー業界の苦況ぶりは、数字をみれば明らかだ。一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会の統計によれば、バブル期前後の輸送人員は'89年で33億50万人。それが、2014年は15億5726万人と半分以下。売上高も'91年の2兆7570億円が、'13年で1兆7357億円となっている。
 そのため都内のタクシー業者は、客数と売り上げ増を目指し、高齢者や女性客の“チョイ乗り”利用を当て込んで、初乗り運賃の引き下げを国に申請。それを受け国は、都内の23区と一部地域に限り、今年1月30日から従来の2キロ730円から1.052キロ410円への改定を認めた。

 都内大手タクシー会社の一つ、大和自動車の広報担当者が言う。
 「運賃改定では、これまで2%からの売り上げ増につながっています。今後、これが長距離利用増につながればと期待しています」

 しかし、現場の運転手からは、こんな不満の声も。
 「企業的にはいいが、運転手の中には、何時間も待機したあげく410円ではやっていられないと、駅待機をやめて流しに重点を置こうという者も増えつつあります。そのため、駅乗り場にタクシーが極端に少ないという現象も出ている。こうした点の是正には、歩合制主導から基本給が高いシステムへの変更が必要ですよ」

 “相乗り”については、全国自動車交通労働組合連合会(全自交)事務局の広報担当者が、こう語る。
 「確かに、うまくいけば需要喚起、売り上げ増につながりますが、トラブルも懸念されます。その中で、最大の問題は運賃。当然、距離やコースによって客各自の料金がアプリで弾き出されることになるのでしょうが、その計算に納得できない客が運転手に文句を言うケースも出てくる可能性がある。その処理に運転手が巻き込まれるということです」

 さらには、相乗り相手の選択も心配される。酒に酔った客を嫌う人、女性客同士を望む人などが多くなれば、客が集まらない可能性もある。
 「また、このご時世、客の家の近くで停車するため、家を特定され、客が客のストーカーになる恐れもあります」(業界関係者)

 加えて、この相乗り制度導入が、日本では解禁されていないマイカーでのライドシェア(相乗り)につながり、これに業界が壊滅的な打撃を受ける危険も孕んでいる。
 「世界では急成長しているマイカーライドシェア制度は、登録したマイカー所有者がアプリで配車を受け、利用者を目的地に届けるシステム。そのサービスを行っている代表は、『Uber』と『Lyft』。ともに米国で'09年、'12年に創設されて急成長中で、相乗りシステムも手掛けています」(業界に詳しい記者)

 しかし日本では、マイカー利用の旅客行為は、“白タク行為”として道路運送法によって禁止されているため、両社とも進出はできていない。
 「それでも両社は、東京五輪に向け日本進出の機会を虎視眈々と狙っています。『Lyft』には楽天の三木谷浩史会長兼社長が360億を出資。その三木谷氏と懇意の安倍首相は、'15年に訪米した際に、同社CEOらと懇談し、前のめりになっています」(同)

 当然、この動きに日本のタクシー業界は反対だ。
 「今回の相乗りへの動きは、海外のマイカーシェア業界進出を制する動きです。オランダでは、『Uber』などより安い料金でタクシー業界が相乗りサービスを成功させている例もある。それらを参考にしつつ、完全に封じ込めたい思惑があるのです」(業界関係者)

 しかし、本来は海外勢封じ込めのための乗り合い解禁が、逆に呼び水となり、黒船襲来となる可能性も否定はできない。さらに今後、トランプ政権が市場開放を求める動きも出かねないという。
 どちらに転んだとしても、タクシー業界の不安は尽きない状況なのだ。

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