しかし、タンパク質が日々のエネルギー源として使われてしまうと、本来の役割である生命の維持を支えることがおろそかになる。
そこで、日々のエネルギー源のタンパク質が必要以上に消費されないように節約しなければならない。その役割を肩代わりしているのが脂肪で、蓄えている大量のエネルギー源のタンパク質が必要以上に消耗されないように食い止め、倹約に一役買っているのが体脂肪というわけだ。
「体温調節」に関しては、もともと脂肪は熱伝導率が低いので、人間の体温保持などの保温作用を持っている。体温は体内で作り出される熱(産熱)と体内から外へ逃げる熱(放熱)のバランスで決まる。
仮に産熱が一定でも、放熱の状態によって体温が変化するため、放熱をコントロールするのが皮下の体脂肪だ。
外気が低いときは体温が逃げ出すのを抑え、熱い時は外気の温度が体内に伝わることを防ぐ。いわば体脂肪は、「人間が身に付けた“電気毛布”みたいなもの」と医療関係者はいう。
さらに、内臓を正常な位置に保ったり皮膚に外傷を受け難くし、その下の骨や筋肉が傷つけられないようなクッション代わりになるなど、体内臓器官の保護をする役割を担っているのである。
このように体脂肪(皮下脂肪)の役割は大きく、重要な働きをしていることが理解できたはず。
ところが、中には「体重が増えた。体脂肪を削ぎ落とさなくては」などと、自己判断でダイエットやスポーツで懸命に汗を流す人もいる。だが、ダイエットをし過ぎて皮下脂肪を減らすのも考えものだ。
東京社会医学研究センターの村上剛主任はこんな見方をする。
「体脂肪が10%以下になってしまうと、環境の変化や暑さ寒さなどに弱く、抵抗力が低下し衰えてしまう。すると、風邪を引きやすくなるし内臓を支える脂肪も減るので、内臓下垂症(たとえば胃下垂など)にもなりやすい。不必要な脂肪がある場合は(日本肥満学会=腹囲が男性85センチ、女性90センチ以上)落とすのもいいでしょうが、よく調べた上で取り組んでほしい」
つまり、適度に脂肪と筋肉の付いた均整のとれたスリムな身体を手に入れるには、“知的な努力”を重ねていく必要があるということなのだ。
だが問題なのは、生活習慣が乱れ、体脂肪を皮下に溜めきれず、溢れた脂肪が小腸やその周辺の臓器の周りに蓄積すること。さらに、本来脂肪が付いてはいけない心臓や肝臓に付着して「内臓脂肪」あるいは「脂質異常」(高脂血症)をもたらし、その結果、動脈硬化や心臓病、脳卒中、糖尿病などの原因になる。
繰り返しになるが、脂肪は悪者ではない。運動不足などの不摂生な生活を繰り返す我々に責任がある。脂肪を溜めず健康でいたければ、食事を少な目に、運動を活発に行うことである。