昭和時代のコンプライアンス事情を証明する出来事として、1969年には「あなたの夫の浮気を調査します」という趣旨の尾行番組が突然放送中止となる騒動があった。
この番組を企画したのは、当時の日本テレビの人気ワイドショー番組『2時ですこんにちは』で、毎週水曜日に「夫の浮気を調査する」という名目で仕事帰りの夫を番組カメラがひたすら追うもので、第1回は放送されたものの第2回目以降はスタッフの判断により突然放送中止。そのままコーナーごと打ち切りとなることが発表された。
原因としては「プライバシー保護の点に問題があった」とのことで、日本テレビの番組担当者は当時の読売新聞の取材に対し、「『夫の浮気調査』というコーナーは番組スタッフが勝手にはじめたこと。依頼者を募集して何か問題が発生しても局として責任がとれない」「夫の隠れ家を見つけ刃物でも持って押しかけられたら局でも対処ができない」と説明している。
上記の理由から『2時ですこんにちは』の尾行調査は恐らく、夫の浮気が真実で核心を突いてしまったシーンがあった可能性が高く、そのことがお蔵入りの原因だったのではないかと思われる。
しかし、裏を返せば日本テレビは、このコーナーを「完全ヤラセなし」でカメラを回してしたということであり、一般人を尾行する番組の危険性やリスクを十分に理解していたとも考えられる(なお、同時期に類似の尾行企画を放送していたフジテレビ系『小川宏ショー』は引き続き、尾行関係の企画を続けており、局によって見解は異なるようだ)。
「ヤラセ」が通用するほど器用ではなかった、当時のテレビ草創期ならではの放送中止事件と言えるだろう。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)