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プロレス解体新書 ROUND30 〈王座獲得でエース襲名〉 栄光のベルトをめぐるドラマ

 力道山からジャイアント馬場へと受け継がれた伝統のインターナショナル・ヘビー級王座。そのチャンピオンベルトを巻いて正統後継者となるべく、ジャンボ鶴田は王者ブルーザー・ブロディに挑み続けた。

 チャンピオンベルトに強い思い入れを持つファンが多いのは、プロレスというジャンルの一つの特徴だ。ボクシングの場合、世界王座のベルトは王者それぞれが認定団体指定のものを新規に購入する形式なので、過去の王者の数だけベルトも存在している(王座交代があったときには、リング上で一時的に前王者のベルトを借りて勝ち名乗りを受け、その後に返却するのが通例)。
 また、UFCなど総合格闘技では、タイトル戦ごとに新規ベルトを制作するのが一般的だ。それに比べてプロレスは歴代王者の持ち回りが基本で、ボクシングなどのように1人の王者に1本のベルトではなく、チャンピオンベルトに歴代王者の闘いの歴史が刻まれている。
 「IWGPベルトといえば、まずアントニオ猪木を思い浮かべるファンもいるだろうし、別世代のファンは連続防衛の橋本真也や永田裕志に思いをはせるかもしれない。実際にはこれまで3度のデザイン変更がなされ、現在のベルトは4代目となるが、それでも闘いの歴史の連続性という点では他競技とは比較にならない」(スポーツ紙記者)

 プロレスのベルトは“コミッション認定”の体裁を取りながらも、実質的には各団体やプロモーターの占有物である。ありていに言えば興行を演出する小道具に過ぎないが、だからこそ団体ごとに独自の色合いが染み付いていて、そこがまたファンの思い入れを一層と深くしている。
 今ではそれ自体が長い歴史を持つ全日本プロレスの三冠ヘビー級王座だが、これも統一される前はベルトそれぞれに特色があった。

 PWFベルトといえばジャイアント馬場の代名詞。
 全盛時には世界の強豪を相手に38連続防衛という、とてつもない記録を打ち立てながら、なぜかキラー・トーア・カマタごときに反則負けを喫した。これはビル・ロビンソンに王座を移譲するためだったが、やはり馬場でなくてはこのベルトは似合わない。
 馬場が一線から退き、長州力や天龍源一郎がPWFベルトを巻くようになってから、すっかり色あせたように感じたファンも多いのではないか。

 UNベルトは期待の若手の象徴。
 日本プロレス時代には猪木や坂口征二、全日ではジャンボ鶴田や天龍源一郎というように、次代を担うべきホープが巻いてきた。

 そして全日において最も高い価値とされてきたのが、インターナショナル・ヘビー級王座ベルトだ。
 力道山がルー・テーズを破って獲得したベルトで、1965年に馬場が戴冠した際に巻いたのは4代目。以降、三冠王座に統一されてからも同じものが使われ続けた。'72年、馬場が日プロ退団に伴いインター王座を返上すると、大木金太郎が次の王者として、ベルトを腰に巻くことになる。

 日プロ崩壊でコミッションがなくなった後も、大木は独自に猪木を韓国に招いて防衛戦をこなすなど大物相手に闘ってきたのだが、それでも馬場からすると、自身や力道山の過去の栄光と比べて物足りなく感じる部分があったのだろう。防衛戦が国際プロレスのリングで行われるようになると、大木にこれを返上させて、'81年には自団体で“復活トーナメント”を開催する。
 復活後の“初代”王者としてベルトを巻いたのは、ドリー・ファンク・ジュニア。次の王者がブルーザー・ブロディ。いずれも馬場が認めるベビーフェースとヒールの本格派であり、さらにその防衛戦の相手も安易に選ぶことはしなかった。
 「それだけ馬場にとっては、このベルトへの思い入れが深かったのでしょう。王者が外国人ということで、そもそも防衛戦自体の回数も少なく、これによって当時のファンもインター王座に対しては、PWFやUNに比べて重厚なイメージを抱くようになりました」(プロレスライター)

 鶴田はブロディの持つこの王座に挑戦し、その高い壁にはね返されること4度(引き分けを含む)。5度目の挑戦となった'83年8月31日(蔵前国技館)は、奇しくもテリー・ファンクの引退試合と同日であった。
 試合は場外から戻ろうとするブロディを、鶴田が後ろから引きずり下ろしてリングアウト勝ちを収める。3カウントやギブアップを奪う完全勝利ではなかったが、鶴田は何度も両手を突き上げて、リング上で感無量の表情を浮かべた。
 「今日からお前がエースだ」
 馬場は試合後、鶴田にそう伝えた。馬場でも外国人でもない全日トップの座は、この瞬間から伝統のインターベルトとともに鶴田へと受け継がれたのである。

 なお、このベルトは'13年に新生・全日本プロレスが三冠ベルトを一新した際、馬場元子さんに寄贈されている。昭和の象徴がまた一つ表舞台から去っていった。

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