友人(20代)と飲んでいると、私に聞いてきた。どういうことなのだろうか。不思議だったので尋ねてみた。
「だって、留学するとかいう人、多くないですか?」
たしかに、キャバクラ嬢の中には、お金を貯める理由に、「留学」をあげる人はいる。ちなみに、その友人も「留学経験」があるが、どんな留学だったのだろうか?聞いてみた。
「アメリカに2週間、ホームスティしながら、英語学校に通ったんです」
うーん、それも「留学」に入れるわけか。それを含めれば、たしかに、キャバ嬢の中の「留学」のイメージは近いものがある。あるキャバ嬢(20)は留学経験があると話しているが、
「高校のときの交換留学でした。2か月くらいだったかな。英語もちょっとだけ話せるようになりましたけどね」
という。そして、このキャバ嬢もまた留学をしたいと言っている。でも、なぜ留学をしたいのか? と聞いてみる。
「特に勉強したいテーマがあるわけじゃないんです。でも、英語を話したいじゃないですか?」
英語を話せた方がいいのだろうが、私の中で留学というのは、どこかの大学に入学したりして、英語はあくまでも手段。法律とか社会学とか国際政治とか、別にテーマがあるんじゃないか、って思ってしまうのです。だから、語学での留学はイメージじゃない。
とはいいつつも、私が接してきたキャバ嬢が言った「留学」は、みんなこのくらいだった。だから、私のイメージでは、キャバ嬢が言う「留学」に、向上心を感じたことはない。むしろ、本当に行くのかどうか怪しいことがほとんだ。
あるキャバ嬢はいう。
「特に目的とかないですよ。お金がほしいだけ。でも、それを言うとお客さんも冷めてしまうんじゃないか、って思って。だから、留学って言えば、盛り上がるでしょ? でも、本当に信じているお客さんもいて、『生活費を支援しようか?』と言ってくるお客さんがいるんです」
ということは、客からすれば、「留学したい」という言葉は、キャバ嬢を支援したいと思うほどのフレーズになっているのかもしれない。なかには、留学するための英会話教室代と称して、援助してもらっているキャバ嬢だっている。
ちなみに、私の中では、「留学」は、支援したい気持ちを揺さぶられない。そう話すキャバ嬢のほとんどが、国内でちゃんと研究をしていないことが多い。国内で研究せずに海外でできるはずもない。きっと、語学留学と称して、実際には遊びたいのだろう。私はそう思ってしまうのだ。
では、どんな要素で私が心を動かすのか。
それは、母子家庭であるキャバ嬢だ。なぜか、私が指名をするキャバ嬢に、母子家庭である確率が高い。少なく見積もっても6割くらいの確率なんじゃないか、と思う。でも、どうして母子家庭にそそられるのか。きっと、それは初めて付き合った人が母子家庭だったからというのも関係しているのかもしれず、その雰囲気を感じ取ってしまうのかもしれない。
でも、他の人からすれば、「留学」も「母子家庭」も、同じように、客を釣るフレーズでしかないのだ。結局は、留学という言葉に惹かれてしまい、支援したくなる客と、私とでは大差はないのかもしれない。
そんなことを考えていたら、新しくお店に行き、よくメールをするキャバ嬢ができたと思ったら、その子も母子家庭だった。わかっていながらも、なぜか母子家庭のキャバ嬢を指名してしまうのだ。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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