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東洋大・桐生祥秀が日本人初100メートル9秒台へ5つの根拠

 19歳のショートディスタンスランナーが“4・19革命”を起こす−−。
 桐生祥秀(東洋大)が織田幹雄記念国際陸上(4月18、19日/エディオンスタジアム広島)に出場する。桐生と言えば、去る3月28日、アメリカ・オースティンで行われた『テキサス・リレー』の男子100メートルに出場し、9秒87をマーク。追い風参考ながら、現地専門家は「公認記録となる追い風2メートル以下であったとしても9秒台が出ていた」と試算しており、この織田記念大会で“日本人初の100メートル10秒切り”が見られるかもしれない。いや、桐生には『夢の9秒台』への追い風が吹きまくっているのだ。

 「9秒台に耐えられる体ができてきた。自分の走りをすれば(新記録が)出ると思う」
 これは、テキサス・リレー後に聞かれた桐生のコメントだ。桐生は洛南高校時代に『10秒01』をマークしている。以後、故障などに泣かされた時期もあったが、この強気な発言を聞くと精神的な成長がうかがえる。
 「本人も語っていますが、昨年はガチガチになっていた。周囲の期待の大きさ、喧騒に自分をコントロールできませんでした」(体育協会詰め記者)

 東洋大学に進み、桐生の考え方も少し変わった。進学後の共同会見で「まだ大学1年生になったばかり。2年生、3年生、4年生と力を付けていけばと考えているので、そんなに急ぐ必要はない」と話していた。
 きっかけは、指導内容にあった。
 「桐生はスターティングブロックの位置設定を変えました。以前はほぼ平行に左右のブロック位置を設定していましたが、それを前後に大きくずらすスタイルに変えたのです。ブロックの設定幅を前後に大きくするとスタートダッシュをかけるには有効です。しかし、中盤でスピードに乗れない。反対に、平行型はスタートダッシュが悪い。桐生はスタートダッシュが苦手で50メートル付近からトップスピードに乗るタイプでしたが、9秒台を出すには、苦手も克服しなければならない。そういう練習を積み重ね、スタートダッシュからトップスピードに乗れる走り方を習得しつつあります」(スポーツ紙記者)

 進学後、桐生を指導する土江寛裕コーチは「歩幅を広くする走り方」にも改造させた。高校時代は意図的に避けてきた下半身の筋トレも解禁。その結果、蹴る力がたくましくなった。
 「股関節の可動域も広くなりました。臀部がひと回り大きくなってきた」(同)

 こうした改造による練習が精神的安定につながり、苦手のスタートダッシュを克服させたのだ。
 「短距離ランナーは反射神経の良しあしがタイムを左右します。これだけは鍛えるのは難しく、桐生には天性のカンがある」(スポーツライター・飯山満氏)

 土江コーチは桐生にこうも伝えているという。
 「陸上競技は順位を争うもの。まずは世界のラウンドを積み重ねていこう」
 9秒台を出すためのトレーニングを続けているが、「記録にこだわり過ぎるな」と言って聞かせることで、余裕を持たせようとしているようだ。

 また、大会オフ期間は10秒00の日本人100メートル記録保持者でもある伊東浩司氏に師事し、股関節に加え肩甲骨の周辺も柔軟にするストレッチを取り入れた。
 「エディオンスタジアム広島は“記録の出やすい会場”としても有名です。高速トラックと称され、風向きも走者に有利な方向に吹く地形です。さらに、スパイクも桐生の体に合わせたものをメーカーが用意しています。一時はレアな4本ピンスパイクを好んでいましたが、故障を機に従来の6本ピンに変更しました」(前出・飯山氏)

 桐生はテキサス・リレーで9秒台を出したことで、世界から標的にされる存在になった。これまで10秒01を出してはいても、海外のトップ選手からは“無視”に近かったが、4人×100メートルリレーでも日本チームがアメリカに迫る2位になったことを機に、海外メディアの反応も変わってきた。
 「桐生は最終走者で出場しました。現地入りした特派員によれば、近年、アメリカを凌駕する活躍を見せているジャマイカの報道陣が驚いていたようです」(前出・飯山氏)

 海外も桐生の存在を報じ「来年のリオ五輪のダークホース」として要注意マークを付けた。これまでの桐生はそんな過度な期待に負けていたが、今は違う。大学での新しいトレーニングで結果を出したことでさらに自信を深め“本来の姿”を取り戻した。
 「桐生は『期待される中で記録を出すのがトップアスリート』という考え。けがに泣かされた時期、そんな自分なりのアスリート像を語ることもできませんでしたが、また堂々と、そう言えるようになってきました」(前出・体協詰め記者)

 昨年の織田記念大会は、100メートル決勝を棄権した。故障が理由だが、その棄権が桐生の成長でもあった。
 「桐生はクソマジメなのか、高校の運動会でリレーに駆り出されて、本気で走っていました。棄権する度胸というか、『できない、やれない』と言える大人になったんです」(JOC関係者)

 非ネグロイドの人種が9秒台を出せば、史上3人目の快挙。トレーニング、精神面、天性、スタートダッシュ、スパイク−−。この5つの根拠を得て、4月19日、桐生祥秀が歴史を作る。

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