「2000万貢いだ」などというと、手練手管で男からカネを巻き上げたケースと思われがちだ。しかし、由香利さんがそうした「やり手」だったという証言はなく、ごく普通のキャバクラ嬢だったらしい。たまたま池田のツボの女性だった、というに過ぎないようだ。
また、「貢いだ」といっても、半分は店での飲み物代や指名料などに使っていた。ちなみに由香利さんの勤めていたキャバクラの料金だが、1時間のセット料金が4000円から5000円、指名料が2000円、女性が頼むの飲み物は1杯1500円というから、都内のほかのキャバクラに比べても、相場かむしろやや安いくらい。そこで1年余りで1000万円も使ったというから、本当に3日と空けずに通っていたか、よほど派手にカネをばら撒いたのであろうか。
また、由香利さんには高級腕時計やブランド品のほか、現金を手渡すこともあったという。
しかし、いくら店に通って彼女を指名し、さらにプレゼントまで贈っても、彼女のほうは「お客の一人」としか考えていなかったようである。
そもそも、キャバクラの女性と「懇意」になりたいのなら、「カネより口説き」というのは常識だ。「カネさえ積めばキャバ嬢はなびく」などという考えが間違っている。
その池田だが、会社員として普通に勤めていたが、由香利さんの店に通うようになってどんどんと借金がかさみ、ついに事件が起きる2か月ほど前に会社を退職。借金のせいで住んでいたアパートも追い出され、上野近辺のカプセルホテル転々とする生活をしていた。
そして、池田は事件の1週間前に犯行に使った果物ナイフを購入。そして、由香利さんの店の休日を確認して、彼女を自分が泊まっていたカプセルホテル近くに呼び出した。だが、「カネさえ出せば」としか思っていない池田に、由香利さんが色よい返事をするはずもない。むしろ、しつこいだけの池田に、由香利さんは冷たく対応した。これに怒った池田が彼女に詰め寄り、口論の末に彼女をナイフで刺したというわけである。
勝手に女の子に思い入れ、勝手にカネをジャブジャブと貢ぎ、そして勘違いの末に激昂して逮捕された、思えば哀れな男の末路だった。(了)
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