昔、この辺りには化け狐が現れて、人を騙すといわれていた。一般に狐は子供の頃は「キャン、キャン」と鳴き、成長すると「コーン、コーン」と、年をとった狐は「ワーイ、ワーイ」と鳴くという。
この宮口村に住む次郎吉という男は最近、化け狐に化かされた。蕎麦畑を川だと思って、着物を頭に上にのせて歩いていた。
ある暖かい秋の夜、庄屋の屋敷に地主たちが集まって秋祭りの相談をしていた。その日は酒も入ったこともあって、帰りは遅くなった。地主たちは近道をして帰ろうと向かったのは、化け狐が出没する辺りであった。
「ここには人を化かす狐が出るらしい」と、甚兵衛が心配そうに言った。「そんな狐がいるものか! 我々は騙されるものか」と、吾兵衛たちは笑って相手にしない。
しばらく行くと、不思議なことに道がなくなり、大きな池が現れた。「これは狐の仕業だ。もとに来た道を戻ろう」。甚兵衛が制止しても、吾兵衛たちは「これは雨が溜まったものだ。浅いから歩いて渡ろう」とザブザブと池の中に入っていった。酒を飲んだ勢いもあり、池の中は気持ちがよく、吾兵衛たちは子供のようにはしゃぎ、踊りだした。その様子を甚兵衛だけがニヤニヤして見ていた。
踊り疲れて一休みしていると、着物がまったく濡れていないのに気がついた。吾兵衛たちは池ではなくすすき野原で踊っていただけであった。いつの間にか、甚兵衛の姿は消え、遠くの方で「ワーイ、ワーイ」と狐の鳴き声が響き渡っていた。
(写真:「宮口神社」愛知県豊田市宮口町)
(「三州(さんず)の河の住人」皆月斜 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou