昨今、緒方孝市監督(47)が口にする言葉が「神ってる」。32年ぶりの11連勝という、近年例を見ない強さの裏には“神憑り的な試合”もあった。6月26日の試合では9回裏、「延長突入か」と思ったら、代打・松山竜平の凡フライを、阪神外野陣が衝突してポロリし、まさかのサヨナラ勝ち。コリジョンルールが適用されてのサヨナラ勝ちもあった。
苦手だった交流戦も、4年目・鈴木誠也の成長もあって11勝6敗1分けと勝ち越した。まさに“神憑り的な強さ”である。
「広島ベンチの雰囲気がいい。雰囲気で勝てるほど甘い世界ではないが、投打ともに戦う集団になったというか…」(ベテラン記者)
その戦う集団への意識改革。それは、もちろん黒田の影響である。
「黒田は昨年オフ、引退を示唆する発言を続けていました。メジャー球団からのオファーを断り、年俸が約5分の1になっても古巣カープに帰還した意味と、引退に傾きつつあった気持ちを再び鼓舞させたものは何か。その意味を広島ナインが本当に理解できたんでしょうね」(球界関係者)
黒田は“メモ魔”でもある。広島にも優秀なスコアラーはいる。しかし、黒田はその攻略データに耳を傾けるだけではなく、自身が実際に対戦し、実感したことも書き加えていく。スコアラーにも質問をする。こうした貪欲な姿勢に、帰還1年目の昨年は「さすが、スゴイ」と、広島投手陣は感服していた。
「感心、尊敬だけではダメで、他投手陣も見習ってメモを取り始めましたが、まだまだスコアラーへの質問のピントはぶれていた。でも今季に入ってから、質問のピンボケがなくなった」(同)
今さらだが、黒田が広島帰還を決めた理由は「このチームで優勝したい」「広島のユニホームを着て引退したい」というものだった。しかし、昨季は優勝候補の筆頭と目されながら、その緊張感が呪縛となり、打線が低迷。投手陣にしても、リーグ最多勝(15勝)の前田健太が今季、メジャー挑戦で離脱し、広島への評価は一気に下がってしまった。
「黒田も40歳で迎えたシーズンは厳しかったはず。優勝したいという思いがモチベーションでしたが、勝ち頭のマエケンがいなくなり、客観的に考えたら、広島を今季の優勝候補に予想できないでしょう」(前出・ベテラン記者)
優勝というモチベーションを失った黒田を再び奮い立たせたものとは、広島球団への愛情である。
「自分が現役を続けたから、優勝圏内に踏みとどまるとか、そういう甘い考えではなかった」(前出・関係者)