山田 道具は紙と鉛筆、あるいはペンだけとシンプルです。初めは四角形もなかなか上手に描けないかもしれませんから、ドットが印刷された紙の方が描きやすいかもしれません。描くときには、人に見せるわけではないので、なるべく早く描くことを心掛け、なるべくたくさん描いて練習してほしいと思います。
また、私の世代だと、若いときにまだパソコンが普及していませんでしたからモノを書く習慣がありますが、今の若い人たちは仕事でパソコンを使わないわけにはいきません。そうすると、紙とペンで表現できる人と、全くできない人の差が開いてしまい、現在の方がかえってビジュアルなスケッチ力を持った人の方がチャンスが大きいと思うんです。
−−スケッチの魅力とは?
山田 仕事で良いアイデアやひらめきが湧いたときに、言葉ではなく絵ですぐに描いてしまうんです。そうすることでアイデアが頭に焼き付くんですね。そのときに大事なのは、あくまでアイデアのイメージを形で捉えるくらいのラフスケッチをすることです。まず、そうしたアイデアを忘れないためのツールとしてスケッチは有効です。
他にもプレゼンテーションのときにも有効です。自分が考えていることやアイデアを相手に伝える際に、言葉でも良いのですが、具体的なスケッチがあると相手に伝わりやすい。また、企画を提案するとき、そんなに準備の時間がないのが現実ではないでしょうか。スケッチは慣れてくると短時間で描けますから、アイデアを具体化して提案する方法としても役立ちます。
スケッチの最大の魅力は、プレゼンやアイデアを忘れないため、具体化するためと言いましたが、全てそれらはご自身のモチベーションや力を高めるためのツールなんです。実際に、スケッチを描き始めるとわかりますが、自信も付きますし、自分の考えていることや伝えたいことがわかるんです。例えば企画を相手に提案して質問されても、伝えたいことがわかっているのでその場ですぐに答えられます。
仕事は信頼関係で成り立っている部分もありますから、すぐに答えられれば信頼もされます。ですから、もちろん言葉で伝えることも重要ですが、スケッチが自然と自分のことを相手に伝えてくれる。そういう意味でもスケッチ力は非常に重要だと思いますよ。
(聞き手:本多カツヒロ)
山田雅夫(やまだ まさお)
1951年、岐阜県生まれ。東京大学都市工学科卒。山田雅夫都市設計ネットワーク代表取締役。著書に『スケッチは3分』(光文社新書)など多数。