『母性』(湊かなえ/新潮社 1470円)
湊かなえが第一級の人気作家であることは間違いない。2008年に出した最初の刊行本『告白』は高い評価を受けベストセラーになった。松たか子主演で映画化され、'10年公開直後から大いに話題を集めた。'12年には『望郷、海の星』で日本推理作家協会賞・短編部門を受賞している。今や名実ともに貫禄を獲得し、多くの読者から次の新刊を待ち望まれる作家といえよう。そんな湊かなえが今年10月に出したのが本書『母性』である。
タイトルからわかる通り、はっきりとストレートに母性をテーマにしているのだが、しかし心温まるほのぼのとした世界を描いているわけではない。母と娘との関係を葛藤や確執といったマイナス要素から徹底的に捉えており、おぞましく、胸が潰されるようなストーリー展開である。
考えてみると母と息子、母と娘、これら2つの間柄は違って当然なのだ。単純にいえば前者は異性同士で、後者は同性同士だ。祖母、母、娘という直線的なつながりは、あらゆる女性に多かれ少なかれプレッシャーを与えるものではなかろうか。働く女性が増えたとはいえ、やはり安定した穏やかな家庭の作り手としての責務も期待される。同じ性であるがゆえに互いの気持ちがわかり過ぎ、細かなしつけと反発も起こり得るだろう。本作に接した男性読者は、女性も激しく戦っていると心底気づくはずだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『BlueMoon』深田恭子写真集(ワニブックス・2940円)
小悪魔のように愛くるしいあの深キョンが、三十路の美魔女でもあるということを堪能できる写真集。
「30代を迎えた自分の大切なスタートにしたい」という本人のメッセージを受け取りつつも、白のキャミソール姿に大興奮だ!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
まさか…と言っては失礼だが、こんな雑誌があるとは思わなかったのでご紹介。『月刊 歌謡アリーナ』(創遊社/840円)は、歌手の長山洋子を表紙に起用し、氷川きよしのインタビュー、山本譲二や新沼謙治の新曲紹介と譜面付きの歌唱指導などを掲載した演歌専門の月刊誌。演歌ファンと、カラオケ愛好者向けに作られているらしい。
今や邦楽のヒットチャートはJ-POP一色で、演歌勢はますます影が薄く感じられるものの、どっこいこの雑誌を読むと根強いファンがいることがわかる。
里見浩太郎、森昌子といった大御所から元殿さまキングスの宮路オサム、デュエット専門の男女コンビ歌手も新曲をリリース、健在ぶりをアピールしており、日本の心“演歌”はまだまだ捨てたもんじゃない。
カラオケに行きマイクを握れば、歌える曲は演歌中心という読者も本誌には多いだろう。年末の忘年会シーズンに向け、レパートリーを広げる助けとなってくれる雑誌だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意