亀田は佳代子と別れてからくすぶっていた複雑な感情がよみがえってきた。佳代子と出会わなければ妻と別れることもなかったし、年功序列の給料が下げられることもなかったろう。いずれ佳代子は理想の結婚相手を見つけてさらに上り詰めていくに違いない。その姿が目に浮かぶようだ。そんな薔薇色の人生は阻止してやらなければならない。
亀田は入念な殺害計画を練り始めた。殺す場所は佳代子がいつもバイクを止めている遊歩道がいいだろう。退社時間の頃には、人通りも少ない。自分の店は近くのショッピングセンター内にあるので、午後8時まで営業中だが、勤務時間中に抜け出して襲えばアリバイが成立する。別の服装に着替えればいいだろう。
事件当日、亀田はナイフやハンマーを用意し、段ボール箱に凶器を隠して業者を装い、ショッピングセンターの搬入口から出た。
現場に向かうと、スマホをいじりながら歩いている佳代子を見つけた。後ろから近づいてハンマーを振り下ろそうとした時、振り返って「キャーッ!!」と叫ばれた。その口をふさぐために押し倒し、用意していたナイフで首元を刺した。
凶器は回収して退散。元の道を戻って仕事場に帰ったが、誰にも怪しまれなかった。佳代子が死んだことは、佳代子の勤務先の店長からの電話で知った。
「オレが犯人だと疑われているんだ。最後に接触したのはオレだが、絶対にやっていない!」
4日後、彼女の告別式には亀田も参列した。ところがお棺の彼女と対面した途端、彼女の目がカッと見開き、「必ずあなたを追い詰めてやる!」としゃべったのだ。もちろん他の人には何も聞こえない。目の錯覚だったのかもしれない。
だが、それから亀田は佳代子の幻影に追われるようになった。どこにいても彼女に見られているような気がするのだ。その翌日、亀田は警察に自首した。
亀田は公判でも泣きながら謝罪したが、げに恐ろしきは“男の嫉妬”である。亀田は「用意周到に準備した計画的かつ悪質な犯行」と断罪され、懲役15年を言い渡された。
(文中の登場人物は全て仮名です)