『リバーサイド・チルドレン』(梓崎優/東京創元社 1680円)
今年1月に決定した第16回大藪春彦賞受賞作である。この賞は名前から即座に受ける印象の通り、基本的にはハードボイルドや冒険小説等、男っぽさや迫力を打ち出した作品が受賞する場合が多い。しかし、そうでなければいけない、というような厳密な取り決めに縛られているわけでもなく、時にはさほど肉体的躍動感にあふれていないものでも受賞に至る。ただ、人の心の中の生々しさが見事に活写されたエンターテインメント、とりわけミステリーであれば対象になり得る、とは言えそうだ。道尾秀介『龍神の雨』、沼田まほかる『ユリゴコロ』の受賞が好例だ。
『リバーサイド・チルドレン』は取り立ててアクション・シーンを売り物にはしていないミステリーだが、繊細でエモーショナルな文体が独特である。カンボジアで父親に捨てられた日本人の少年がストリートチルドレンの仲間入りをする。ひたすら貧しく廃品回収の仕事で生き延びる日々。しかし仲間たちと一緒というだけで心の安寧は維持できるのだ。その狭い世界で殺人事件が続く。おそらく作者が描きたかったのは絶望の中でも消えない究極的な純粋精神だ。貧しかろうが、いくら人が死のうが、この精神を保っていれば生きていける。異国を舞台にして、日本に限定されない世界共通の普遍的な希望を描くことができた。これも生々しさの一種と言えよう。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『その物言い、バカ丸出しです』(梶原しげる/角川SSC新書・840円)
「基本的に〜」「逆に言うと〜」…。あなたの口ぐせ、相手は不快です! フリーアナウンサーの著者が、ラジオやテレビ、講演などで経験・見聞きしたバカだと思われる実例を多数紹介しつつ、軽く見られない話し方のコツを伝授します。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
ヨットやモーターボート愛好家向けの専門誌を紹介。『月刊Kazi』(舵社/1100円)だ。
船舶のニューモデル紹介から、ヨットレースやクルージングのガイド情報などを網羅。しかも国内にとどまらず、最新号ではタヒチ諸島をヨットで航行する際のアドバイスを特集し、多彩な海外ネタも盛りだくさん。
青い海を滑るように航行する船舶の写真が美しく、思わず見とれてしまう。ヨットやボートに乗ったことがない、それどころか関心すらないという読者も、こうしたページには心を動かされるに違いない。
また、ヨット全日本選手権上位者に学ぶ航行コースの取り方や、ドイツのデュッセルドルフで開催された世界最大級のボートショー記事など、普段は知ることのないテクニックや出来事が、専門誌らしい丁寧な写真と文章で綴られる。
海をライフスタイルの一つと捉えた誌面が、男のロマンをかき立てる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意