米国で火を噴いた排ガス規制逃れ問題が、欧州をはじめ世界中に拡大。対象車は同社の発表ベースで1100万台に達した。金銭的ダメージは深刻で、2兆円は下らないとされる米国が課す制裁金に加え、株価急落の損失を被った投資家らによる世界規模での訴訟ラッシュが懸念されており、支払い総額がグループの営業利益(1兆7000億円)を大きく上回るのは避けられない。企業イメージの大幅悪化が業績ダウンに直結し、経営の屋台骨を揺るがすのは必至だ。
問題のディーゼル車は、日本国内では230台が登録されているという。正規の輸入ではなく「個人的輸入」(国土交通省)で、VWの日本法人は来年春には中型セダン『パサート』の投入を計画していたが、今回のスキャンダルにより延期を検討せざるを得なくなった。
「日本でディーゼル車の普及が遅れた理由は、東京都の石原慎太郎知事(当時)が真っ黒なススが入ったペットボトルを振りかざし、大気汚染を引き起こすと説明したのを機に『ディーゼルエンジンは環境に悪い』とのイメージが定着したことが大きい。そこで日本のエコカー戦略はハイブリッド(HV)が担ったのですが、欧州では排ガス技術の改良で窒素酸化物など有害物質の排出が極力抑えられるようになったことから、低燃費のエコカーとして5割強のシェアを誇っています」(ディーラー関係者)
世界一の座を固めるべく、VWが「燃費の良いエコカー」として日本市場に正規ルートから風穴を開けようとした矢先、米国から「排ガス試験のときだけエンジンの動作を調整し、有害物質を減らす違法ソフトを開発、搭載した」という衝撃の事実が暴露され、世界中に激震が走ったのだ。
VWの命運と並行して、国内の関心は日本車が受ける影響に移っている。前述したようにディーゼル車はエコカーの“本命”ではなかったが、排ガス浄化技術の進歩に伴い、HV、電気自動車(EV)に次ぐ“第3のエコカー”として、世界中に認知され始めていた。
ところが今回の騒動によりVWがボロボロになる分、国産勢が誇るHV車やEV車、さらには世界的に見てもトヨタが先行する燃料電池車(FCV)が、世界のエコカー市場をリードするのは確実だろう。
「FCVは、欧州では『ガラパゴス』と陰口されていました。自国のみで普及して独自の成長を遂げるが、世界的な普及は望めそうもないとの厳しい見立てです。今年1月、トヨタが5700件にも及ぶ自社のFCVの特許を無償で開放すると派手にぶち上げたのも“トヨタ基準”を一気に世界中に広めようとにらんでのことでした」(経済記者)