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2010年 夏の甲子園特集(3)〜ノーシード校の泣き、笑い〜

 7月25日、成田高校が東海大望洋を破り、20年ぶり7度目の甲子園出場を決めた。両校とも『実力校』ではあるが、今夏の千葉県大会では『ノーシード』だった。東海大望洋はセンバツ代表校だが、県春季大会でまさかの1回戦負けを喫している。両校とも決勝戦に勝ち上がるまでの苦労は並大抵ではなかった。
 「去年ほどの苦労はないと思う」
 関係者が言う。昨夏、千葉県代表の座を勝ち取ったのは八千代東高校である。「逆転の八千代東」とも称された粘り強さは有名だが、同校は代表決定後にも“戦い”が待っていた。『寄付金集め』である。

 同校はごく普通の県立高校である。当然、専用グラウンドはなく、右翼は60メートルほどで、低いネットの向こうにはサッカー部やラグビー部が練習をしていた。野球では全くの無名だった同校が『激戦区・千葉』を征した勝因は守備練習と、練習試合に意義を持たせたこと。その詳細は割愛するが、当時、筆者が取材した限りでは、「普通の公立高校でも練習の密度を濃くし、部員たちもその意義を理解すれば強豪校に勝てる」ということ。後輩球児たちを勇気づけるものだったが、同校は“甲子園大会を戦う軍資金”に苦戦した。
 事務職員、PTA、後援会、野球部OB、野球部員の父母会等で『応援組織』が結成されたが、寄付金集めは学校が弾き出した目標額にはなかなか届かなかった。近郊にはマンモス団地街もあったが、駅周辺の商店街は賑わっていない。行政も“協力しきれない部分”があったという。しかし、特筆すべきは近隣住民、関係者が寄付金以外の応援を惜しまなかったことだ。
 「あの学校の生徒は買い食いしたお菓子の包み紙や空き缶をポイ捨てしないし、だらしない格好をした生徒さんは1人もいないし…」
 同校まで利用したタクシードライバーの証言だ。近隣の他校生徒が粗暴というわけではないが、駅周辺でも同様の声が聞かれた。従って、寄付金集めでは苦戦したが、緊急結成した応援組織はその夏の甲子園大会後も継続されている。
 こうした組織力こそ、最大の武器ではないだろうか。

 成田、東海大望洋は私立校であり、甲子園も経験している。それなりの予算を組んでいるので、八千代東のような苦労と心配はないだろう。ともに近隣住民との交流を大切にしており、成田の試合には大勢の関係者が応援に駆けつけるのは間違いない。

 『組織』といえば、今夏はこんな光景も目立った。ネット裏観客席で“関係者”がビデオ撮影を行っていたのだ。次に対戦すると思われる学校カバンを持った野球部員もいて、スコアブックを付けていた。場内放送で「野球部員のネット裏での観戦はご遠慮ください」とアナウンスしていたところから察するに、高校野球界も偵察部隊を当たり前のように派遣するようになったのだろう。野球部員は場内アナウンスに従ったが、ビデオ撮影している大人は退席しなかった。「現在、試合をしている学校の父母」だったかもしれないが、強かな学校はテレビ放送されないローカル球場での試合情報を、応援組織のメンバーがビデオ撮影で情報収集を行っているという。
 今夏代表校・成田に行き過ぎた偵察がなかったことは強調しておきたい。
 高校野球は『組織』で泣き、そして笑う時代に突入したようである。

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