今回、竹中平蔵氏や東京新聞の長谷川幸洋氏ら右派が用意した最大の武器は、「経済成長が必要だと思わないのか」という踏み絵だった。確かに経済が成長して豊かになれたほうが、いいに決まっている。だからこの問いかけに、日本共産党の小池晃副委員長までが、「経済成長は必要」と答えてしまった。
右派の人たちは、経済成長のためには、生産性を上げるための構造改革が必要で、そのための規制改革を進める以外に成長の方法はないと、いつも通りの主張をした。
例えば、竹中氏は、エアビーエンビーの成功を見習えと主張した。'08年に米国で設立された同社は、世界192カ国で80万以上の民泊情報を提供しており、非公開会社ながら、その企業価値は3兆円と、トヨタを上回る規模に達している。ベンチャー企業でも、それだけの企業価値を生み出せるのだというのだ。
ただ、エアビーエンビーの従業員数は500人あまりで、その程度の人数しか食わせることができない。トヨタの従業員数は、連結で35万人。雇用を生み出すという社会貢献の面では、エアビーエンビーは、トヨタの1000分の1に過ぎないのが実態だ。
また、ベンチャーの可能性に関して、司会の田原総一朗氏が挙げたのが、宮城県山元町にある株式会社GRAが生産する「ミガキイチゴ」だった。
GRAは、東日本大震災後に設立されたベンチャー企業で、もともと町にあったイチゴ生産のノウハウをIT化して、百貨店で一粒1000円で売れるイチゴを創り出した。そうした努力を積み重ねていけば、TPP参加後も日本の農業は発展していけるというのだ。確かにGRAは素晴らしい成果を残したが、問題は、一粒1000円のイチゴを食べられるのは、本当の富裕層だけということだ。
日本の農業の一番素晴らしいところは、普通の庶民が食べる農産物が、安全で美味しいということだった。それは、農家が利益追求ではなく、消費者によい農産物を届けようという情熱で農業をやってきたからだ。だから、農業で利益を追求するアメリカのように遺伝子組み換えをしたり、収穫後の農産物に農薬をかけたり、家畜に成長ホルモンを与えたりはしなかった。
もし、日本の農業を同じように利益追求の場に変えれば、金持ちだけが安全な食品を食べ、庶民に健康リスクが降りかかるのは明らかだろう。
資本主義化を一層進めれば、経済のパイが大きくなるかもしれない。しかし、その成果は自動的に庶民や中小企業には回ってこない。だから、今考えなければならないのは、経済を成長させることではなく、経済成長の成果をいかに庶民や中小企業に行き渡らせるかということなのだ。
富裕層を増税して庶民に分配する。それをやれば消費が拡大して、結果的に経済が成長ことになるだろう。