『ダブル』(深町秋生/幻冬舎文庫 720円)
映画好きの方であればロッキング・オンから出ている月刊誌『Cut』を本屋で手に取ることもあるだろう。新作紹介を記事のメーンにしておらず、むしろ旧作を今の感覚で捉え直す、という姿勢が感じられる。上映された時期が最近か以前かということは、この雑誌の編集部ではあまり重要視されていないのかもしれない。
2013年1月号では名作とされる映画のメイキング写真を紹介した。監督が俳優を演出している様を撮った写真などが掲載されている。『カサブランカ』『ゴッドファーザー』等々。そして1996年に日本公開された犯罪アクション映画『ヒート』の貴重な写真も載っている。アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロが揃って監督から指示を受けているワンカット。この映画は暴力を描くことが美にまで達するという奇跡を観客に知らしめた。
これに匹敵するフィクションはあるだろうか。そう考えたときに思い浮かんだのが、深町秋生の『ダブル』だ。'10年に単行本で出版され、昨年10月に文庫化された。
主人公はドラッグ密売の組織に所属する殺し屋だったが、どうしても組織と対立せざるを得なくなり、その後、整形手術を受け警察の手下のように潜入捜査をすることになる…。本作でマシンガンを撃ちまくり戦う男たちの姿は実に美しい。デ・ニーロが好きな人は絶対楽しめるはずだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『政府はこうして国民を騙す』(長谷川幸洋/講談社・1000円)
オフレコやリークを自分たちのツールとして使いこなす官僚たち。「かつて自分は財務省の忠実な下僕だった」と告白する筆者だからこそ書くことができた、驚くべき霞が関とメディアの本当の関係…。ニュースの見方が劇的に変わる1冊。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
現存する日本の城の天守や石垣を詳細に解説し、さらに戦火や災害で消失した櫓や門を、CGや古絵図などのビジュアルで見事に再現した『週刊日本の城』(ディアゴスティーニ・ジャパン)が、1月8日に発売された。(創刊号のみ特別定価290円、以後590円)
現在店頭に並んでいる第2号に掲載されているのは、犬山城天守、姫路城など、いずれ劣らぬ名城。
愛知県の犬山城は、江戸時代までに建造された日本最古の様式をもつ天守が現存する。斎藤道三、織田信長にゆかりのある国宝指定の城だ。世界遺産・姫路城も天守・櫓が現存。池田輝政の居城だったことで知られ、白い漆喰で塗られた城壁から白鷺城とも呼ばれる美しい外観を誇る。そうした歴史を体感できるよう、豊富なCGや資料が盛りだくさんだ。
専門知識だけでなく、城巡りのおすすめルートや、周辺の史跡を紹介するコーナーもあり、ライトファンでもたっぷり楽しめる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意