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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第349回緊縮の王国からのエクソダス

 消費税増税の目的は「社会保障の安定化」でも「財政破綻を防ぐ」でもない。というよりも、日本が財政破綻する可能性が皆無であることは、財務官僚のほうがよく知っている。

 消費税は、単に「財務省の省是が緊縮財政」であるために増税されたのだ。目的は社会保障の安定化や財政破綻うんぬんでも、「増収」ですらなく、緊縮財政そのものである。

 財務省は、2025年にプライマリーバランスを黒字化する緊縮財政の目標を掲げている。そして、財務省内で「PB黒字化目標の達成に貢献すれば出世できる」構造になっているだけの話にすぎない。

 つまりは、10月1日に消費税率が10%へ引き上げられても、緊縮財政は終わらないのだ。具体的には「再増税」「社会保障支出の削減」「社会保障負担の引き上げ」の3つが今後も進められる、と、筆者は警鐘を鳴らしていた。

 ナイーブかつピュアな日本国民の多くは、
「消費税が増税されたのだから、社会保障は安定化するだろう」
 などと考えていたのかも知れないが、そもそも目的は社会保障安定化ではない。

 10月1日以降、予想通り、いや想像以上の勢いで再増税、社会保障支出削減、社会保障負担引き上げ(これは、要するに増税だが)の「世論醸成」が進んでいる。具体的に見てみよう。

 10月1日。経済同友会、桜田謙悟代表幹事が「消費税率の引き上げについて財政規律の観点から「’25年には14%以上が望ましい」と発言。

 10月28日。経済財政諮問会議で、安倍総理が「持続可能な地域医療体制を構築するため」とのお題目で、病院の統廃合(=削減)や「過剰な」ベッド数削減などを進めるよう関係閣僚に指示。

 11月1日。財政制度等審議会が「医療費の自己負担増や診療報酬の引き下げ」を提言。

 11月13日。経団連が安定財源の確保のためとして、消費税について「10%超への引き上げも有力な選択肢」と指摘。

 11月25日。IMF(国際通貨基金)が「日本は’30年までに消費税率を15%に上げる必要がある」とのレポート公表。ちなみに、ご存じの読者も多いだろうが、IMF副専務理事は「日本の財務官僚」で、副専務理事以外にも数十人の財務官僚がIMFに出向している。出向中の財務官僚が、消費税率の引き上げが必要とのレポートを書き、「IMF」の名で公表させたとしか思えない。いわゆる、権威プロパガンダである。

 同じく11月25日、財政制度等審議会が麻生財務大臣に「消費税率10%への引き上げは、財政と社会保障の持続可能性の確保に向けた一里塚にすぎない」との提言を提出。

 11月28日。「全世代型社会保障制度の実現」と銘打ち、政府は75歳以上向け後期高齢者医療制度について、現在の原則1割の窓口負担を、2割に引き上げる方向で検討に入った。

 特に、後期高齢者の窓口負担引き上げは影響が大きい。厚生労働省は、75歳以上の受診時の窓口負担を「原則1割」から「原則2割」に引き上げた場合、公費や保険料でまかなう医療給付費が年額で約8000億円減らせるとの試算を公表している。

 高齢者を狙い撃ちにした、8000億円の「再増税」である。しかも、多くが所得を稼いでいない高齢者の窓口負担が「倍になる」わけだ。

 さすがに、高齢者の窓口負担引き上げは反発が大きいであろうから、そう簡単には実現しないと予想していたのだが、甘かった。

 12月2日、政府が後期高齢者の窓口負担を’22年から2割に引き上げる方針を固めたとの報道が流れた。具体的には、社会保障審議会(厚生労働省の諮問機関)で議論を進め、来年秋の臨時国会への関連法案を提出するとのことである。

 無意味というよりは明らかに「有害」な高齢者の医療費自己負担の「倍増」であるが、これまでの安倍政権や国会の実績を見る限り、普通に通りそうだ。

 無論、国民の(というか高齢者の)反発は高まるであろう。自己負担引き上げによる内閣支持率低下を防ぐため、今後は「後期高齢者 対 他の国民」という争いに持ち込むべく、ルサンチマン・プロパガンダが展開されることになると予想する。

 安倍政権は「全世代型社会保障改革」というスローガンを掲げているが、これは「全世代の国民の社会保障を充実させよう」ではない。「社会保障を建前に、全世代から容赦なく所得や資産を奪おう」という意味であるため、注意が必要である。

 しかも、この「全世代型」という言葉が曲者なのだ。つまりは、社会保障の負担について「国民の全世代で分かち合おう」という印象を国民に植え付け、社会保障の負担増を嫌がる(普通は嫌だろう)世代を「悪者」と化し、国民の分断を図ろうとするのだ。

 自己負担倍増に対し、後期高齢者が反発したとして、
「高齢者の医療費を、現役世代が負担させられている! 許せるのか!」
「膨れ上がる高齢者の医療費のせいで、財政が破綻し、全世代が迷惑する」
「病院のロビーに行くと、高齢者のサロンのようになっている。医者にかかる必要がない高齢者が暇を持て余して病院に行っている」

 といった、30年前から使われている陳腐なレトリックがマスコミをにぎわすことになるだろう。

 この種のルサンチマン・プロパガンダに騙されてはならない。

 そもそも、我が国の財政には問題はない。何しろ、インフレ率が相変わらず低迷し、政府の「貨幣(国債)」発行余力は高まり続けている。社会保障支出が増えたならば、普通に国債を発行すればいいだけの話だ。

 むしろ、現在の緊縮路線は医療の供給能力を破壊し、将来的に「真の社会保障の危機」をもたらす。具体的には、医者が減り、看護師が減り、病院が減り、病院のベッドが減る。医療サービスの供給能力が不足すると、「カネ」を出したとしても、国民がまともな医療を受けられない時代が訪れることになる。

 この手の「事実」を、国民が共有できるか否か。緊縮財政は「国民を殺している」という真実を理解し、一人一人が「緊縮の王国からのエクソダス(脱出)」を目指さねばならない時代なのだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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