炎天下の8月に開かれるため、ヒートアイランド現象の抑制や熱中症対策などと並んで電気自動車(EV)や燃料電池バスの技術開発が盛り込まれたことに、関係者は「やっぱり」と口をそろえる。単に同省が「環境にやさしい五輪」を掲げるからではない。2020年の東京五輪は“トヨタ五輪”と揶揄されるほど、トヨタ自動車と利害が一致するためだ。
今年の初め、経団連は財界を挙げて東京五輪をバックアップすべくスポーツ推進委員会を新設した。その委員長に就いたのがトヨタ自動車の豊田章男社長である。財界デビューを飾った章男社長は次いで東京五輪組織委員会の副会長に就いた。会長は森喜朗・元首相で「当初、会長として白羽の矢が立った張富士夫・トヨタ名誉会長が固辞したことから森さんが暫定的に会長になった。後継者は御曹司で決まりとの見方がもっぱらで、五輪開催時点で彼は経団連会長に就き、組織委の会長を兼務しているはずです」(財界関係者)
章男社長への期待が高まる理由は明白だ。五輪開催に向けた資金集めにはオール財界の全面協力が不可欠。その点、トヨタの御曹司が財界総理の座に就けば資金集めがスンナリ行く、との見立てに他ならない。
「トヨタは世界に先駆けて燃料電池車(FCV)を発売する。ところが燃料を供給する水素ステーションの設置などインフラ整備には膨大な金が掛かる。そこで五輪開催を商機拡大のチャンスと捉え、フル活用する構えです。環境省=政府だってトヨタの強い意向を無視できず、五輪に向け燃料電池ウンヌンなどと唱えるのは『トヨタさん、ヨロシク』との意思表示に他なりません」(経済記者)
五輪開催を「千載一遇のチャンス」と捉えている点では、三越伊勢丹ホールディングスも負けていない。同社は羽田空港のターミナルビルを運営する日本空港ビル、成田空港を運営する成田国際空港と共同出資で空港型免税店の新会社を設立、来年秋に東京・銀座の三越銀座店に出店する。
街中にある免税店は消費税だけが免税になるのに対し、空港型免税店は関税や酒税、たばこ税も対象で、日本ではまだ沖縄にあるのみ。東京五輪開催で政府が観光客2000万人の誘致を計画していることを追い風に3社の商談がまとまった。三越銀座店で開業するのは「来日する観光客が訪れる『世界のギンザ』だからで、目標は売上高1000億円」(関係者)と鼻息も荒い。
日本航空(JAL)も商機拡大に抜かりがない。同社は8月2日、「ラグビー日本代表(男女)」と「セブンズ(7人制ラグビー)日本代表(男女)」のオフィシャルエアライン契約を締結した。代表選手団の国内外移動、手荷物移動などをサポートする。
2016年のリオ五輪と'20年の東京五輪ではセブンズが正式競技に採用されている他、'19年には日本でW杯が開かれる。日本男子は世界10位にランクされ、サッカーを大きく上回ることから「世界的なPR効果は、むしろ五輪のTOPスポンサー以上」(アナリスト)とされる。
JALと好対照なのがその数少ないTOPスポンサーの米マクドナルドだ。サッカーW杯ブラジル大会では日本マクドナルドがオフィシャルスポンサーになったが、日本代表の不振もあって散々だった。揚げ句に中国で期限切れ鶏肉問題が噴出、今やマックは日米とも四面楚歌の真っただ中にあえいでいる。
「世界で11社ある五輪のTOPスポンサーのうち純粋な日本企業はパナソニックとブリヂストンだけ。ただ両社とも総額350億円前後とされるスポンサーの契約マネーをどこまで有効に生かせるかとなると怪しい限り。むしろ、スポーツでは実績があるミズノやコナミ、アシックスなどには『なぜブリヂストンがTOPスポンサーに選ばれたのか』との不満が渦巻いています」(スポーツ担当記者)
そんな中で凄まじい商魂を発揮しているのが2027年に東京-名古屋間のリニア開業を目指すJR東海だ。'45年には大阪への延伸を計画している。政府には東京五輪に間に合うよう公的マネーを投じて突貫工事を急ぐシナリオがあるが、会社側は拒否している。
「公的資金が入れば首根っこを押さえ込まれるからです。妥協策として五輪までに現在の山梨実験線を甲府まで伸ばし、観光客に時速500キロを体験させる案が浮上している。本音は今年の4月、実験線にケネディ駐日大使を試乗させたようにリニア技術を海外に高く売り込むこと。商談成立ならばビッグマネーが転がり込みます」(リニア関係者)
東京五輪開催まで後6年。欲望と商魂が渦巻く中、どこが美酒を堪能するか。これからが正念場である。