春夏甲子園連覇を成し遂げた島袋洋奨投手(18=興南)が、中央大学進学を表明した。プロ野球各球団スカウトは身辺調査で情報を掴んでいたらしく、それなりの覚悟はできていたようだ。また、東都リーグの関係者によれば、一二三慎太投手(18=東海大相模)も系列大学への進学が濃厚になったという(9月8日時点)。そうなれば、甲子園の優勝、準優勝の両投手がドラフト戦線から消えることになる。
「親御さんの気持ちにもなれば、当然でしょう。大学に行けばツブシが利くしね。後にプロ野球に進んで芽が出なくても球団職員として残れるだろうし、指名されなければ、地元に帰って指導者になればいいんだから」(在京球団職員)
だが、プロ野球各球団が甲子園で魅せられた『本命投手』は、島袋君ではなかったようである。
「注目の島袋クンをじっくり育ててみたいとは思いましたが…。でも、今年の高校生のドラフト候補は(育成に)ちょっと時間が掛かりそうな心証も受けました」(在京球団スカウト)
同スカウトへの質問を変えてみた。「今夏の甲子園大会で、もっとも将来性を感じた投手は誰か?」−−。広陵高校・有原航平君(右投右打=広島県)だと言う。有原君が「指名上位リストに入っている」と答えた関係者は少なくなかった。広陵高校は今夏の甲子園では上位進出できなかったが、有原君の140キロ台後半の直球、高速スライダー、縦カーブと見間違えるほど大きく曲がるチェンジアップは、早くから注目されていた。しかし、彼が推される理由は別のところにあった。
「彼は身長が190センチ近くあるし、体つきもしっかりしている。島袋君は173センチしかありません。どの球団も同じことを言うと思いますが、身体能力の高さを感じさせるのは、身体の大きい有原君の方ですよ。その有原君も早稲田進学を目指しているって言うんでしょ?」(前出・同)
現時点で正式表明はされていないが、進学希望の情報は、本人に近い関係者から出たものらしい。
「有原君の進学希望に多くのスカウトマンを落胆させられたのは本当です。ただ、今年は大学生投手の当たり年。有原君がプロ志望届を出していたとしても、指名順位はせいぜい3位。1位、2位はなかったと思う。楽天のマー君(田中将大)みたいに1年目から一軍でもまれるのも教育だが、マエケン(前田健太=広島)のように、二軍で先発登板の経験を積ませ、同時に体力強化をはかる方がいいと思う。高校生投手に対し、後者の育成ビジョンを掲げる球団の方が多い」(球界関係者)
二軍での下積みを「大学4年間」に置き換えた場合、「一軍で確実に試合に出られる保証がないのだから、教員免許でも取得させておいた方がマシ」というが、球児を持つ親の心境のようだ。また、現代っ子はクールである。彼らはプロ野球報道を介し、同じ高校生でもドラフト上位と下位では入団後の扱いが大きく違ってくることも知っている。
甲子園出場の有無に限らず、高卒ルーキーが主力選手に育っていく様子は、ファンを魅了する。 健在のパ・リーグを牽引している主軸投手のほとんどが、高卒である。
「巨人はたとえば足が速いとか、一芸に秀でた選手を集めるなど、二軍組織を拡張する計画を温めています。他球団もそれに追随すべきですが、経営的事情で難しいと思う。球界再々編なんてことに…」(プロ野球解説者の1人)
プロ側も「大学よりプロ野球」と、高校球児に思わせるだけの組織改革を進めなければならないだろう。
「たとえば、斎藤佑樹と島袋の投げ合いが実現するとなれば、オープン戦でもテレビ中継(地上波放送)されたはずです。島袋君を逃がした衝撃は大きい」(前出・同)
甲子園の優勝投手がプロ入りを回避した実状を、プロ野球経営陣は深刻に受け止め、早急に策を講じるべきである。