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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」★小泉構造改革を問い直せ

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提供:週刊実話

 不適切販売問題を受けて、かんぽ生命と親会社の日本郵政、および販売委託を受けていた日本郵便は、契約の乗り換えの際に顧客に不利益をもたらす取引をした疑いのある18万3000件の契約を直接加入者に確認するのと同時に、3000万件すべての契約に関しても、検証を始めると発表した。全貌解明はこれからだが、どうやら被害者は、高齢者に集中しているようだ。

 なぜそうなったのか。郵政三事業は、かつて郵政省、すなわち国が行う事業で、従業員も国家公務員だった。その時代を長く経験している高齢者は、郵便局に絶大な信頼を寄せている。だから、郵便局員が騙すはずがないと信じている。その信頼を、過酷なノルマに窮した郵便局員が悪用して、高齢者を手玉に取ったのだ。

 40年前の話だが、私は日本専売公社(現JT)で、営業の仕事をしていた。年間の販売ノルマはかかっていたが、達成は簡単だった。年度末近くになって、預金通帳とハンコを預けてくれた販売店が2軒、白紙小切手を預けてくれた販売店が1軒あったからだ。いずれも店主は高齢者だった。彼らの頭のなかでは、専売公社は、もともとの「大蔵省専売局」のままだったのだ。

 今回の事件を受け、かんぽ生命は現場に課しているノルマを廃止するとしている。しかし、それを額面通りに受け取る従業員は、ほぼいない。郵便事業でも、年賀状販売で過酷なノルマがかかり、従業員が自ら年賀状を大量に買い込む「自爆」が問題になり、個人ノルマは表向き廃止された。しかし、いまだに局員の自爆は続いている。個人ノルマがなくなっても、チーム目標は残っているからだ。

 私は根本的な問題解決に、郵政の再国有化が不可欠だと考える。日本では郵政民営化を掲げた小泉内閣が、’05年のいわゆる郵政選挙で、圧倒的な国民の支持を受け勝利したため、「郵政民営化は間違っていた」とは言いにくい空気が支配的だ。

 確かにかつての郵政省には、親方日の丸の雰囲気が漂っていて、効率的な事業運営ができていなかった。しかし、民営化されてから国民にとってよくなったことがあるだろうか。例えば、ずっと続けられてきた郵便物の土曜日配達は、いま廃止の方向で検討が進められている。ゆうちょ銀行も、元本割れの恐れのある投資信託の販売に注力するようになった。そして、今回のかんぽ生命の不適切販売だ。株主が求めるのは利益の拡大だから、そのツケが利用者に回ってくることは、民営化の時点で十分予想できたし、それが露骨に表れてきた証拠が、今回の事件ではないだろうか。

 民営化がもたらした被害は日本だけではない。サッチャー改革で片っ端から民営化を断行したイギリスでも、反省の機運が広がっている。イギリスの労働党は、郵便、水道、エネルギー、鉄道といった国民生活のインフラ産業に対して、公的なコントロールを取り戻すことを公約に掲げている。

 日本の郵便局は、まさに社会インフラだ。全国の郵便局数は約2万4000もあるが、三菱UFJ銀行の支店数は、全国で754にすぎない。金融機能を郵便局に頼る地域は多いのだ。

 私は、効率化と安心のバランスが取れる「郵政公社」くらいの形態に戻すことが、国民にとって望ましいのではないかと考えている。

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