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話題の1冊 著者インタビュー 木下昌輝 『宇喜多の捨て嫁』 文藝春秋 1700円(本体価格)

 −−『宇喜多の捨て嫁』というタイトルはインパクトがありますね。主人公である戦国大名の宇喜多直家はどんな人物だったのでしょうか?

 木下 私は剣術や柔術をはじめ、戦場でいかに生き残るかを今に伝える、美作発祥の竹内流という武道をわずかな期間ですが習っていたことがあります。この流派では、相手が裏切ってきたときにどう対応するかという型が大変多く、皆さんのイメージする武士道とは大きく違います。稽古をするうちに、裏切りが当たり前な下剋上という時代の本質に触れたように感じました。そこで、竹内流創始者の竹内久盛について調べているうちに宇喜多直家と出会いました。
 詳しく調べると、直家は裏切ることも厭わない相当な悪人なんです。当時、戦国大名は、親戚の娘を政略結婚させるために養女にするのは珍しくないのですが、直家は実の娘さえも捨て駒のように扱うほどの悪人でした。

 −−悪人である直家の魅力は、どんなところですか?

 木下 一つは、プライドがないところですね。松永久秀のように悪人といわれる戦国大名もいますが、大抵最後は自分のプライドに準じて自害しているんです。でも、直家はプライドがないので、少しでも自分たちが不利な状況になれば、すぐに謝り、また裏切ったりする。そこまでプライドがないというのは面白いですし、家のことを考えればそれがベストだったのかもしれません。
 もう一つの魅力は、悪事を働きながらも、ものすごく貧しい時代を家臣たちみんなで支え合って生きていました。今のような不景気で仕事もなかなかなく、家族を養うのが苦しかったり、生きるのに苦労する時代に通じるものがあると思うんです。だから読者のみなさんも自分と置き換えて、感情移入しやすいと思います。

 −−作品を描く上で気を付けた点はありますか?

 木下 現代小説っぽく書きたかったので、実験的にあえて年号をほぼ出しませんでした。年号を出すと、どうしても今の視点になってしまい、読者が時代を俯瞰してしまう。そうしないことで、物語の中に潜り込んでほしかったんです。それに当時を生きていた人は、将来何が起こるかなんて知らないわけですから。

 −−あえて、どんな方々に本書を薦めたいですか?

 木下 頑張って日常を送っている方々、企業に勤めて一生懸命働いている若者や、中間管理職に就き苦労されている方々が、本作を読んで息抜きしていただけたらうれしいですね。
(聞き手:本多カツヒロ)

木下昌輝(きのした まさき)
1974年、奈良県生まれ。近畿大学理工学部建築学科卒業。2012年、今作で第92回オール讀物新人賞受賞。

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