となれば、正恩委員長の次の一手は、地政学的な見地から周辺国を競わせること、つまり北朝鮮独自のポジションを維持するためにロシアを利用することだ。
ましてや大国の復活を最大の政治課題とするプーチン大統領は、英国の元スパイ殺人事件以降、メイ首相が口火を切ったロシア外交官の追放総数が200人を超えたことへの報復措置として、各国に対しそれぞれの国と同数の在ロシア外交官の追放を通告するなど、欧米vsロシアは“準戦時下”の様相を呈し始めている。
「プーチン大統領は状況対応に卓越した能力を発揮し、シリアに絶妙なタイミングで介入して主導権を得、次に米国が進めるイランの核武装阻止にも巧妙に介入し、中東政治を引っかき回しています。ロシアは旧ソ連時代に北朝鮮を創建した設立者ですから、経済で失政したポイントを北朝鮮で稼ごうと真剣に検討し始めていますよ」(前出・国際ジャーナリスト)
1990年にソ連から独立した後、2004年にNATOとEUに加盟したバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)は、欧米諸国とロシアとの間で軍事的な緊張が世界で最も高まっている地域だ。現在、3カ国には第2次世界大戦後初めてNATOの戦闘部隊が常駐しており、両者のにらみ合いが続いている。
「バルト海沿岸にあるカリーニングラード州はロシアの“飛び地”ですが、今やNATOの領土にクサビのように食い込んだ橋頭保となっています。周辺地域には核弾頭を装備できる短距離ミサイルも配備。さらに同州に近いバルティスク港は、ロシア海軍のバルチック艦隊の母港です。ロシアが国際法を無視してクリミア半島を併合したように、バルト3国にはロシア再統合の危機が迫っているのです。極め付きは、ロシア大統領選の最中、極超音速で飛行でき、対空システムも突破できる無敵ミサイルを誇示しながら『ロシアやロシア同盟国に対する核兵器の使用は、どんな攻撃であれロシアに対する核攻撃と見なし、報復措置に出る』と強調したことです。このときプーチン大統領が披露したビデオでは、何発もの核弾頭がトランプ大統領の別荘地フロリダ州と思われる場所に向けて降下しています。欧米は『プーチンと金正恩は同じ』と認識したことでしょう。中国の習主席の許しを完全には得ることができなかった金委員長の方からも、ロシアの核の傘を模索するでしょうね」(同)
北朝鮮は、北東アジアの平和を脅かす存在としては弱小国家だが、この地域におけるカリーニングラード州になり得る存在だ。中国に泣き付き、ロシアを利用し、韓国を引きずり込んだ形の“護送船団”で臨む正恩委員長にとって、米朝会談は最後の大勝負となる。
「欧州とロシアの急速な関係悪化、エスカレートする米中の輸入関税報復合戦が、これからの1カ月、正恩委員長の“腹積もり”次第で一層、中ロ南北朝鮮vs米国欧州の様相に変わっていきそうです」(同)
軍事力という後ろ盾を米国に頼る日本は、この戦いに“おまけ”としてくっつけられることになるのだ。