大リーグ球団のスカウトが本気モードで張り付いているのにはわけがある。
彼らの多くは、早ければ3年後には日本ハムがポスティングにかける可能性がある…と見ているからだ。
「花巻東の3年生のとき、大谷はメジャー行きを希望してメジャー数球団のスカウトとも面談している。それを日ハムが強行指名して『将来メジャーに行くためにも、まずうちに来てやらないか』と説得し入団させた経緯がある。難航が予想されたわりに、すんなり入団したので、5年くらい在籍すればメジャーに行かせるという約束があったとしても不思議じゃない」(大リーグ球団の駐日スカウト)
大谷に対するメジャー球団の評価はどの程度なのだろうか?
「去年までは、素質は凄いけど、メジャーですぐに通用するレベルではなかった。162キロが出たって日本では大騒ぎしていたけど、3Aには160キロを投げる若いのがゴロゴロいるから、それで評価が跳ね上がるようなことはなかった。でも今は違う。彼は今季、ハイ・ファストボール(高目の速球)とスプリッター(フォーク)を高低に投げ分けてハイペースで三振を取れるようになった。このパターンは大リーグには一番有効だから、評価額が昨年の6千万ドル(72億円)くらいから、一気に1億ドル(120億円)くらいになった感がある」(同スカウト)
読者の中には1億ドルと聞いて、田中将大より5500万ドル(66億円)少ないと思われる方がいるかもしれないが、大谷はまだ完成度は7割程度で、まだ制球のバラツキが大きく、立ち上がりも不安定だ。それを考えれば、最上級の評価だと言っていい。
大谷はメジャーのどの球団に迎えられる可能性が高いのだろう。
本人の希望はメジャーでも「二刀流」でやることだが、今のように先発投手とDHを兼任するのはメジャーでは不可能だ。
大谷のパワーレベルではメジャーのDHはとても務まらないからだ。日本のレベルでは大谷のパワーは「上」レベルだが、メジャーのレベルでは「中の下」レベルだ。メジャーでDHをやるのはヤンキースのアレックス・ロドリゲスやレッドソックスのデービッド・オーティズに代表される守備力は落ちたが、パワーと勝負強さは依然トップレベルで30本100打点を期待できる打者だ。
昨季大谷は打者として87試合に出場し、打率2割7分4厘、本塁打10、打点31という数字を出しているが、これをメジャーに置き換えると、投手の球威や球場の広さが違うので、打率2割2分か3分、本塁打2〜3本、15打点くらいの数字しか出せなかったと思われる。だから「DH兼任」はあり得ないのだ。
打者へのこだわりを満足させる形で移籍を考えるなら、いちばん現実的なのは指名打者制のないナ・リーグのチームに行くことだ。
ナ・リーグの先発投手は年間、打席に立つ機会が80回くらいある。バッティングが自慢の投手も結構いて、そうした投手は日頃から打撃練習もしている。こうした「強打の投手」は代打で使われることも珍しくないので、大谷もそのタイプの投手になればいい。
メジャーにはポジションごとにその年のベストヒッターを選んで表彰する『シルバースラッガー賞』があり投手部門もある。日本人投手は候補になったことすらないので、大谷に、その第一号の期待がかかるが「6番打者レベル」の打力が必要なので、そう簡単にはいかないだろう。
最後にメジャーに行く場合、どの球団が有力か考えてみたい。
条件は三つある。
(1)ナ・リーグのチームであること
(2)1億ドル規模の契約を交わせる資金力があること
(3)日本人が住みたがる西海岸の都市か、東海岸の大都市のチームであること
この三つの条件に当てはまるのはロサンジェルス・ドジャースとサンフランシスコ・ジャイアンツだ。ドジャースは資金力がメジャーでダントツの1位。大谷が高校3年生のとき、もっとも熱心に獲得に動いた球団でもあるので、大本命はドジャースだろう。
そして2番手がジャイアンツ。大穴はパドレスだ。
ヤンキース、レッドソックスは投手が打席に立たないア・リーグのチームなので、今のところは圏外にあるように見える。
スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。