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増え続ける高齢者の犯罪率 誰でもなりうる「窃盗症」の危険信号(2)

 都内に住む主婦のA子さん(47)は、万引きの常習者。チョコレート、ガムなどのお菓子やカップラーメンなどを公然と持ち出して御用になったが、犯行はそれにとどまらず、衣類や電気製品にまで及び、ついには裁判で8カ月の実刑を言い渡された。
 刑務所ではひたすら反省の日々を過ごし、二度と万引きはやらないと心に決めたA子さん。しかし、早くも出所の翌日、「万引きしたい」という衝動に勝てず再び犯行に及んだ。
 幸いというべきか、万引きは見咎められずに済んだため警察行きにはならなかった。「万引きしたことで、スーッと溜まっていたものがなくなった」と、A子さんは後日、警察に話している。

 しかし、それでは済まなかった。数カ月後、繁華街に出たA子さんは商店街に並ぶ商品を目にして衝動的に万引きをした。挙動不審のA子さんをマークしていたガードマンが店を出たところで彼女に声をかけ、警察に突き出された。
 結果、裁判でも累犯だったため、再び実刑。
 実はA子さんは小学生の頃、両親が離婚。父方の祖母に育てられた。両親に可愛がられた記憶がなかったという。記憶に残っているのは言い争いをし、父親が母を殴る光景しかない。情緒不安定を抱える彼女は、成長すると摂食障害にもなった過去を持つという。

 窃盗症の特徴を列挙しておくと、まず、感情の変化が激しいのだという。
 「窃盗をする前は、衝動的な感情から緊張が高っていき、窃盗を行うと快感に包まれる。が、その快感はすぐに消え去り、窃盗をしてしまった後悔に襲われるのです。しかも、やらないと心に決めていても、また衝動に駆られて窃盗を繰り返してしまう。第二に、女性に多い。多くの人が摂食障害やうつ病などの合併症状を持っています。合併症状を起こす精神疾患はいずれも食べたい、盗みたいという行為に依存してしまう傾向が強いため、窃盗も同じく依存してしまうのです」(精神科医)
 さらに第三の特徴として、ストレス社会と呼ばれる現代で、いじめなどさまざまの要因で心にストレスを抱え、窃盗症になってしまうことも多く、窃盗症になると、そのトラウマから抜けだせず蟻地獄のように苦しむ。つまり、窃盗とはいえ我々が何かの拍子に陥る可能性もあるのだ。

 では、立ち直る手段は何か。茅野氏が続ける。
 「心理療法としては、衝動に抵抗し、窃盗により生じるマイナスのイメージを思い浮かべ、別の行動を選択するような行動療法、衝動の背景にある気持ちを書き留めていく認知療法が推奨されています。さらに幼少期や家族歴など振り返り、独りで寂しかった思い(孤独感)や心が虚しかった気持ち(虚無感)などに気づき(洞察)、今後の生活や人生につなげていけるとよいでしょう」

 とはいえ、度重なる窃盗に対し、親族の中には心無い言葉を投げつける者がいないではない。
 「注意すべきことは、周りがとかく“手癖が悪かった”とか“しつけが甘かった”などと批判に終始しないことです。多少は家族歴・生育歴上の問題はあるでしょうが、これは“脳の病気”であり、治療を必要とする状態であることを社会が認識すること。さもなくば、社会的な偏見と差別ばかりが横行して、必要な診断・治療が行き届きません。特効薬はなく、サイコセラピー(精神療法・心理療法)により自分の生い立ちをありのままに見つめること。西洋ならば精神分析療法、認知行動療法、東洋ならば森田療法、内観療法でしょう」(茅野氏)

 気長に治療していくしかない。

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