しかし、範囲の拡大は同時に自衛隊員の身体的精神的負担を押し上げ、さらには生命の危険増大にもつながる。とりわけPKОはそうだ。海外での活動ともなれば地理、気象条件の違いに耐えるだけでなく、戦闘に巻き込まれる危険性は常にある。
PKОには、紛争当事者間の停戦合意成立、紛争当事者および国などが日本の活動に同意などの参加5原則が存在する。とはいえ紛争の火種がまだくすぶっており、再発の恐れもある不安定な環境に置かれ、その上でいわゆる駆け付け警護の事態が生じれば“命の危険”は国内活動の比ではない。
それさえも顧みず、南スーダンには約350名の陸上自衛隊員が派遣され、道路整備、医療活動などの支援事業を展開し、さらにソマリア沖やアデン湾などでは海上自衛隊員が海賊行為の監視と船舶の航行護衛に就き、国際平和維持の一翼を担っている。だからこそ、安保関連法の施行を機に自衛隊員の待遇も考慮されるべきではないか、という論も並行しているのだ。
自衛隊員の給与とはどのようなものか、一般にはあまり知られてない。自衛隊員の給与は「防衛省の職員の給与等に関する法律」で定められている。これによると、毎月支給される基本給の他、潜水作業、爆発物取り扱い作業、落下傘降下作業、災害派遣、対空警戒対処など、ざっと三十数種類もの手当が給付される。
「給付額も、同一場所で同一作業、同一作業時間であれば男女差、階級の上下差はなく、同額給付です」
防衛省給与制度班の宮原健一班長はこう説明する。性別や階級による差があってはならず−−。当然の取り計らいだろう。
では具体的に作業内容と給付額はいくらか。これに触れる前に自衛隊員の俸給を見ておきたい。
基本給は階級や勤続年数、勤務評価、貢献度などによって給付額が違う。自衛隊員は2等陸海空士から陸海空将まで16階級ある。一般自衛官として採用された最下位の2等陸海空士の一号俸では16万1600円、士長になると一号俸で17万6500円、1等尉は一号俸27万2600円。1等佐は一号俸で46万700円。最上位の将は一号俸で70万5000円となっている。号俸とは、いわば勤務評価。評価が上がれば号俸も上がり、給与も増す。
手当はすべて日額で給付される。手当と作業の関係を自衛隊らしい主な危険作業を例に見ると、まず不発弾処理など特殊な危険物除去作業である「爆発物取扱作業」に従事した場合、手当は1万400円以内となっている。潜水艦に乗り込み、海中深く潜航して警戒任務に就いた場合の手当は1750円が上限だ。落下傘降下作業は1回につき6550円。ただし、天候や降下地点によっては生命にも関わるため、特殊作業手当ないし落下傘隊員手当の対象になれば上限1万2600円が給付される。
未曽有の大被害が発生した東日本大震災では陸海空の自衛隊が出動し、献身的な救助活動に国民は感謝と感動を覚えた。自衛隊と国民の信頼関係がいっそう深まったのである。この救助活動にも自衛隊員には「災害派遣等手当」として1620円が給付された。さらに震災では津波で多数の住民が亡くなり、自衛隊員がガレキや土砂に埋もれた遺体の収容に当たった。この場合も作業に従事した自衛隊員には「遺体処理手当」として上限3200円が給付された。
南沙諸島に大型機の発着が可能な飛行場を建設するなど、中国による軍備増強はアジア地域の軍事バランスの脅威となっており、東シナ海や尖閣諸島の領有権をめぐって摩擦が絶えない。そのため航空自衛隊は早期警戒機などを飛ばし、領空領海侵犯の監視に当たっている。この場合にも搭乗員には「航空作業手当」として上限3400円が給付されるが、1カ月の給付額は5万1200円を超えてはならないとしている。これは搭乗員の負担軽減措置だ。また、地上での航空警戒管制業務であれば「対空警戒対処等手当」として560円が給付される。
このように自衛隊員には、作業ごとに日額手当が細かく規定されている。だが、これらの例は主に国内活動であり、海外派遣時は含まれていない。海外での台風や地震など大規模災害の救助作業に参加要請を受け、自衛隊員が派遣されることがあるが、派遣隊員には「国際緊急援助等手当」として上限4000円が給付され、現地の治安状態などで心身に過重な負担が伴えば規定の範囲内で手当が加算されることになっている。