帝国ホテルの時価総額は7月末時点で約1720億円。サーベラス保有分の市場価値はざっと680億円の計算になる。だが“インペリアルホテル”としてのブランド価値を伴うため「サーベラスは強気。時価に相当の上乗せを要求し、一歩も退かない構え」(関係者)。数年前には2000円半ばで低迷していた株価も今春ごろから徐々に回復し、サーベラスの戦略が明らかになった途端に6000円を窺う展開となった。当然、売却価格も吊り上がるため、市場には「1000億円プラスαの攻防戦」との観測さえ飛び交っている。
「下馬評では三井不動産が断然有利とされている。三菱地所が丸の内界隈での建て替え工事を次々と控えて日比谷・内幸町まで手が回りにくいのに対し、三井不動産は三信ビルと日比谷三井ビルの建て替えを計画しており、もし帝国ホテルを傘下に組み込めばセットによる周辺の大型再開発が可能になる。だからこそサーベラスは三井不動産が必ず飛びつくと踏んだ。三菱地所を売却候補にしたのは、ライバルを引っ張り出すことで三井不動産に譲歩を迫りやすくするための高等戦術ですよ」(不動産関係者)
三井不動産、三菱地所とも公式にはサーベラスから帝国ホテル株売却の打診があったことは認めていない。しかしサーベラスはM&Aの財務アドバイザーとして既にみずほ証券を指名、複数の買い手候補の中から両社に絞り込んだ経緯がある。みずほ関係者は「年内決着を目指すが、トントン拍子で進むかもしれない」と早期決着の可能性を示唆する。
実はサーベラス、帝国ホテルの筆頭株主になるに当たって身銭を1銭も切っていないのだ。3年前にかつて「小佐野王国」の異名を取った国際興業を買収したのに伴い、国際興業が39.58%の株式を保有する帝国ホテルの筆頭株主の座が自動的に転がり込んだからだ。いわば付録として手に入れた帝国ホテルの株が1000億円からの丸儲けに直結するわけだ。ハゲタカファンドの面目躍如で、笑いが止らないとはこのことだ。
「絵に描いたような濡れ手に粟ですからサーベラスが売り抜ければ確実に国民感情を刺激する。まして帝国ホテルの敷地は半分が国有地です。そのため永田町には“サーベラスを甘やかすにも程がある”として安易な売り抜けへの規制強化を求める声が燻っている。すぐそばにあるみずほ銀行本店(旧第一勧銀本店)は第一銀行と日本勧業銀行が合併した際、当時の田中角栄蔵相がご祝儀として国有地の一部を払い下げた経緯がある。それと同じ手法は使えない以上、ホテルの株問題が厄介な政治問題に発展しかねません」(金融筋)
本来ならば「小佐野王国」がサーベラスの軍門に下った時点で片付けておくべき案件を先送りしたツケが、これから回ってくるのだから皮肉である。ホテル株の譲渡価格ともども今後、外資が間接的に支配してきた国有地の扱いが論議を呼びそうだ。