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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第87回 日本経済の最大の問題

 現在、日本の「国の借金」が減りつつある。より正確に書くと、実質的に返済しなければならない「政府の負債」の残高が減少しているのだ。
 政府の負債とは(「国の借金」という呼び名は誤りだ)、具体的には国債、財融債、国庫短期証券の合計になる。
 要は、過去に日本政府が発行した「借用証書」であるが、残高が減っているとはいっても、別に政府が国債等を償還(返済)しているわけではない。政府の子会社である日本銀行が国内の金融機関から国債を買い取り、新たな日本円を発行する量的緩和を継続しているため、「政府が実質的に返済しなければならない借金」が減りつつあるという話である。

 子会社である日本銀行に、国債を買い取らせると、政府は借金を返済する必要がなくなる(利払いも不要になる)。民間企業も同じだが、子会社と親会社間のお金の貸し借り(利払いも)は連結決算で相殺されてしまうのだ。
 政府の国債等の発行残高全体は増えているものの、日銀保有の割合が激増した結果、「日銀以外保有国債・財融債・国庫短期証券」はピーク('12年9月)から、すでに44兆円以上も減少した。

 わかりやすく書くと、政府は新たな通貨を発行し、借金を「なかったこと」にしているのだ。そんなことをしても構わないのだろうか。
 構わない。理由は、政府の目的が「利益」ではなく、「経世済民」であるためだ。
 国民を豊かにすることができる「タイミング」であるならば、政府は日銀に国債を買い取らせて構わない。そうでなければ、やってはならない。ただ、それだけの話である。

 いずれにせよ、現在の日本には「国の借金」や「財政破綻」といった問題はない。問題は「別のところ」にあるのである。
 すなわち、国民の所得が増えていないことだ。

 ところで、なぜ政府が子会社の日銀に国債等を買い取らせているのかといえば、別に借金棒引きが目的という話ではない。銀行が民間企業などにお金を「貸しやすく」することで、国内の投資や消費を増やすことである。
 国内で生産されたモノやサービスが購入されると(=投資・消費)、日本国民の所得が創出される。
 だが、現実の銀行(預金取扱機関)のバランスシートを見ると、以前は30兆円規模だった日銀預け金(日銀当座預金の残高)が、今や120兆円を超えてしまっている。銀行が「国債を日銀に売却し、支払ってもらったお金」を、日銀当座預金で凍り付かせているのである。

 理由の一つは「日銀当座預金のお金に0.1%の金利がつく」ためだが、それ以上に「民間の資金需要」が不足しているという問題がある。
 無論、銀行側は貸したがっているが企業側が借りないケースと、企業側は借りたがっているが銀行側が貸さないケースの二通りがあるのだろうが、銀行からお金が借りられないという点では同じだ。
 日銀がどれだけ銀行から国債を買い取り、日本円を発行しても、お金が借り入れられ、消費や投資に向かわない限り、日本国民の所得は1円も増えない。
 ちなみに、意外かもしれないが、日本の銀行の貸出態度判断DIはすでにかなり回復してきている。中小企業に対してすら銀行の貸出態度判断DIはプラス化し、'05年水準(アメリカ不動産バブル期)にまで戻ってきているのだ。
 少なくともマクロ的に見る限り、銀行の貸し渋りは終息しつつある(もしくは終息した)。

 上記をお読み頂くと、現在の日本の「三つの状況」が見えてくる。すなわち、
 (1)「国の借金」「財政破綻」といった問題は、現在の日本には存在しない
 (2)金融緩和で発行されたマネーが、日銀当座預金で凍り付いている
 (3)銀行の貸出態度は好転している
 (1)〜(3)を理解してはじめて、日本経済に対する「正しい処方箋」を描くことが可能になる。

 具体的には、
 「政府が国民の所得や企業の設備投資を誘発するように、お金を使う」
 である。
 ところが、現実の日本政府は、再び「緊縮財政」の方向に向かおうとしている。消費税増税は言うまでもなく、財政支出についても「節約」志向が強まっているのだ。

 政府が閣議決定する予定の、来年度予算案の概算要求基準に向けた骨子案には、
 「義務的な経費も抜本的な見直しを行い、可能な限り歳出の抑制を図る」
 「社会保障について合理化と効率化に最大限取り組む」
 「公共事業などに充てる費用を10%低く抑える」
 など、率直に言って絶望したくなるほど的外れな文言が並んでいる。
 結局、デフレ脱却を標榜して誕生した第2次安倍(晋三)政権にしても、財政均衡主義の支配下から脱することはできなかったという話なのだろうか。

 ちなみに、日本経済の最大の問題と言っても過言ではない財務省式「財政均衡主義」は、介護報酬や公共事業費を抑制し、現場の労働者の賃上げを不可能にしている。
 結果的に、労働者が介護や土木・建設分野を去り、人手不足が発生。「外国移民(外国人労働者)」の推進にまでつながっているわけだ。

 安倍政権が財政均衡主義の呪縛に囚われ、逃れることができない場合、日本国民の貧困化が進み、国民経済が再デフレ化することで名目GDPと税収が減り、財政状況は今以上に悪化、介護や土木・建設分野を中心に外国人労働者が流入し、さらに国民の実質賃金が下がるという、日本国は過去に類例を見ないほどの「落ちぶれた国」に成り果ててしまうだろう。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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