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本好きオヤジの幸せ本棚(31)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『わかりあえないことから -コミュニケーション能力とは何か-』(平田オリザ/講談社現代新書 777円)

 ある程度の年齢を過ぎると誰かにものを教わるのが億劫になる、というのが人全般の傾向だ。すでに自分は子供ではない、だから、どのように行動すべきか決めるのは自分自身だ、と最初から決めてしまう。プライドを捨てられないのだ。
 試しに捨ててみるのも悪くないかもしれない。たとえば人間関係で大いに悩んでいるとき、本当に自分だけの力で解決できるものだろうか。そもそもプライドを捨てられない者同士が譲らないから、折れないから、いつまでたっても関係が悪いままなのだ。まずは自ら先に捨てると、新しい何かがもたらされることもあるのではないか。こういう柔軟な態度を習慣にすると、啓蒙的な本もすいすい読めるようになる。著者から素直にものを教わることができるのだ。
 平田オリザは1995年に『東京ノート』で岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家、演出家だが、教育者でもある。大阪大学をはじめ、さまざまな場所で演劇創作を使った若者の育成を行っているのだ。なので、本書は情操教育的な語り口になっているのだけれど、いわゆるいい大人も参考にできる斬新な発想が盛りだくさんだ。激しいディベートより柔軟な対話を重視する、といった考え方は現実にある不毛な争いを解決する糸口になるだろう。
 プライドを捨てて本書を読み終わったあと、いっそうプライドの呪縛から自由になれるかもしれない。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『新・だれも書かなかった「部落」』(寺園敦史/宝島社新書・780円)

 部落差別自体もかなりの面で改善されてきたとはいえ、イメージは相変わらず“ステレオタイプ”なものが主流を占めている。なぜ、払拭されないのだろうか。
 同和行政と解放運動の腐敗に切り込んだ「名著」の大改訂版が新書で登場だ。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
 出版社が刊行しているムック『仏像探訪』(1100円+税)が売れ行き好調らしい。昨年2月に第1号が発売されて以来、今回の「奈良至宝の仏像めぐり」で4号目。1300年を超える歴史ある寺院が数多く残る南都・奈良の仏像が丁寧に紹介されており、見応え十分だ。掲載された写真は大半が撮り下ろしというから、力の入れ具合がわかろうというもの。
 国宝の薬師寺・薬師三尊像をはじめ新薬師寺の十二神将、東大寺の盧舎那仏、長谷寺の十一面観音、岡寺の如意輪観音など、日本を代表するが仏像がズラリと並んでいる他、聖徳太子誕生の地に建つといわれる伝説の巨大寺院・橘寺の魅力を再発見する企画など、単なるガイド本とは違う工夫もあって面白い。
 仏像の“顔”をクローズアップした写真は、それぞれに全く異なる個性的で豊かな表情を捉えており、見ていて飽きることがない。秋の行楽シーズン、現地に赴いて実物を眺めてみたくなる気を起こさせる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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