「正捕手育成を担当する矢野燿大作戦兼バッテリーコーチは、高いレベルでの教育を予定しています。若い2人がそれを消化し、自分のものにするまで、それなりの時間を要すると思います」(プロ野球解説者)
先発ローテーションの主軸は、言うまでもなく藤浪晋太郎(21)だ。その藤浪が信頼を寄せる捕手が鶴岡一成(38)なのである。
昨年5月14日の対ヤクルト戦、この試合が藤浪の分岐点になった。
この時点での藤浪の成績は1勝4敗。シーズン初戦こそ勝ち星で飾ったが、その後は勝負どころで痛打を食らう試合が続いていた。関係者によれば、投球フォームに迷いがあったという。前年オフから藤浪が課題としていたのが『脱力』。投球フォームから無駄な力を全て削ぎ、スピンの掛かったボールを投げたいとしていた。しかし、マイナーチェンジさせた新投球フォームに“違和感”があり、ストレートそのものの球質も落ちていた。
そのヤクルト戦の5回裏、先頭バッターはピッチャーの成瀬善久だった。当然のことながら、成瀬は全く打つ気がなかった。
その打つ気配の無さを確かめた捕手・鶴岡がシグナルを送った。
(ちょっと、テストしてみろ)
藤浪は鶴岡のサインに頷き、右腕を振り下ろす角度、新投球フォームの力の入れ具合などを微調整した。
「これだ!」
藤浪が求めていたストレートになった。スピンの掛かった、浮き上がるようなボールが鶴岡のミットに突き刺さった。
前出の関係者がこう続ける。
「鶴岡はストレート中心の配球を組み立ててきました。最後は外角低めで三振を取るイメージで、失投すれば痛打になると分かっていても、藤浪をステップアップさせるためと、その配球をしばらく続けました」
藤浪は15〜16年オフ、関西系メディアの取材で「鶴岡さんのリードは、良い意味で難しい」と答えていた。決まれば相手打者は手も足も出ないが、失投した場合のリスクもあるという意味だろう。しかし、そのリスクを恐れていたら、藤浪の成長はなかった。
金本知憲監督(47)は鶴岡の育てる配球に一目置いており、トラの投手陣も信頼を寄せている。チームの将来を考えた場合、多少の失点は覚悟しても、梅野や坂本を使っていかなければならないだろう。ギリギリまで経験値の少ない若手を使い、勝負どころでベテラン鶴岡に切り換える。そんな捕手起用も張られるかもしれない。
「負けていい試合なんか、1つもない」と金本監督は言った。長いペナントレースのなかで、鶴岡がマスクを被る試合が重要な意味を持つことになるだろう。