厚生労働省の調査によれば、わが国のうつ病患者の数は、2008年に100万人を超えた。日本人の15人に1人は、一生に一度はうつ病にかかる可能性がある(有病率)という報告もある。
特に、中高年にうつ病が多いというわけではない。「うつ病は心の風邪」というフレーズが流布し、薬を飲めば簡単に治る病気であるかのように考えてしまっている人も多いが、知っているようで知らないのが“うつ”という病気である。
それにしても、うつ病患者が100万人というのは、べらぼうな数字といえる。'99年の調査では約44万人だから、ここ10年で患者が倍増した計算になるわけだ。いったい、世の中では何が起きているのか。
うつ病が激増した背景にはいくつか理由が考えられるが、一つには、うつ病の診断基準が変更されたことが大きい。世界標準とされるアメリカの診断基準では、うつ病は「気分障害」と病名を変更、うつ病概念そのものが変わった。
うつ病の主な症状を挙げれば、以下のようになる(アメリカ精神医学会『DSM-IV』の基準による)。
(1)抑うつ気分が続く
(2)何に対しても楽しくなく、興味が持てない
(3)イライラして、落ち着かない
(4)集中できない
(5)自分を責める
(6)自分には価値がないと思う
(7)食欲がない
(8)眠れない
(9)疲れが取れない
(10)死んだ方がよいと思う
西新宿にて精神科クリニックを開業する精神科医で、日本芸術療法学会理事の富澤治院長はこう説明してくれた。
「うつに必須の症状は、気分の落ち込み(症状1)と意欲の低下(症状2)です。この症状のどちらか一つを含めた5つ以上の症状が、2週間以上続いて日常生活に支障をきたす場合には、一般的にうつ病と診断されることが多いでしょう」
なるほど、一定のうつ症状があれば、うつ病と診断することができるようになったのだから、多くなるのも当然の話だ。