人気アーティストやアイドルがカウントダウンライブを催すのは、特に珍しいことではない。ジャニーズでは1996年から、ハロー!プロジェクトでも2013年から恒例の行事としている。知名度や集客力的に、ももクロがカウントダウンライブを行うことには、なんら不思議はない。ただ、発表の経緯において若干の物議を醸した。
11月26日、NHKが今年の紅白歌合戦の出場者を発表。そこに、ももクロの名前はなかった。2012年から3年連続で出場、衰えぬ活躍ぶりから今年の出場も堅いものと見られていた。フタを開けてみれば、HKT48やSKE48とともに、まさかの落選。「局への貢献度」などが選考の基準にあると言われる紅白では、単純な人気で出場枠が得られるわけではない。しかしながら、落選の報せは意外だった。
この結果に対し、ももクロ運営サイドの反応はすばやく、そして少しばかり過激だった。
「ももいろクローバーZは紅白歌合戦を卒業します。ありがとうございました。冬の軽井沢、5大ドームツアー、そしてその先も私たちは私たちのやり方で、みなさんと一緒に “私たちの道”を歩き続けます。ど真ん中しか歩きません」
落選ではなく、「卒業」という言葉を使って結果を伝えたももクロ。それは、「落とされたのではなく、こちらから辞退したのだ」というようにも読み取れる。
ももクロの卒業宣言に、ネットの反応も早かった。ツイッターなどでは、「卒業したんじゃなくて落ちたんだよ」「事実を捻じ曲げるな」という、批判的な指摘が次々に書き込まれた。大晦日のカウントダウンライブに関しても、「落選が分かったから、急きょ会場を押さえたんだろ?」と。
これらの指摘は、おそらくいずれも正しい。ただ、真正面から批判としてぶつけるのは、無粋と言わざるをえない。プロレスを観戦していて、今さら「なぜ、自分からロープへ飛ぶのだ?」という疑問をぶつけ、鬼の首を取ったかのように「これは八百長だ!」とバッシングするようなものだ。
卒業宣言もカウントダウンライブも、紅白落選を受けて決まったことなのは、火を見るよりも明らかだ。事実、メンバーはそれぞれのブログで「落っこちてしまいました」などの言葉で報告し、名物マネージャーの川上アキラ氏(現在はプロデューサー)も、「紅白の件は落っこちて考えたの、みんなで、この先をね」と、間違いなく落選であることを認めている。
それでも「卒業」という言葉を使った、ももクロの“壮大な負け惜しみ”。この「プロレス」に「きちんと落選だと言え!」と返すのは、非常に格好の悪い“マジレス”だろう。
2008年の結成当初、NHKホールにほど近い代々木公園で路上ライブを行っていたももクロ。「この路上から、あのNHKホールへ」と、「紅白出場」は彼女たちにとって大きな夢だった。2012年にその悲願を達成したあとも、変わらずに紅白は特別なものだったはず。だからこそ、単に「落選した」というありきたりなフェイドアウトだけはしたくなかったのかもしれない。
今回の流れには、ももクロの運営サイドとメンバーの分裂を危惧する向きもある。いわく、「ももクロちゃんたちは、ホントは卒業なんかしたくないんだ。卒業は、kwkm(川上氏)が勝手に決めたことに違いない!」と。これもまた、概ね正しいのだろうが、同時に甚だ的外れでもある。
ももクロに限らず、アイドルグループの舵取りを運営が半ば一方的に行うのは、ごくごく当然のことだ。AKB48であろうが、ハロプロであろうが、ジャニーズであろうが、それはなにひとつ変わりはない。落選に対する正直な気持ちを各々が自分の言葉で語れる分、ももクロのメンバーと運営陣は、いたって風通しのいい関係に思える。
卒業宣言への批判的な意見のなかには、「何様だ!」と憤慨するものもあった。要は、「天下の紅白歌合戦様に向かって、自分から離縁状をつきつけるのは生意気だ」ということなのだろう。確かに、紅白歌合戦は国民的音楽番組であり、その歴史と権威に比類するものはない。しかしながら、出演者や視聴者側が、必要以上に平伏することもないように思える。NHK関係者が憤慨するならともかく、一般にこうした声が上がるというのは、それだけ紅白を「権威」として捉える人が多いということだろう。そういった意味では、ももクロの卒業宣言は、業界や一般の意識に一石を投じるきっかけにはなったはずだ。
ファンの気持ちを思うとき、ひとつだけ残念なのは、2011年に脱退した早見あかりと交わした「紅白で再会」という約束が果たせなかった点だ。とはいえ、「落選」を「卒業」という言葉に置き換えて前向きに進むももクロのこと、返り咲き出場が決まったならば、あっさり「小学校を卒業して、中学校への入学です!」と言い放つかもしれない。そのときは、無粋なマジレスは控え、アイドルファンならではのスタンス「楽しんだ者勝ち」をまっとうして欲しい。
【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第7回】