「韓国の中央日報は7月17日、米海軍のエセックス揚陸準備団(ARG)と海兵隊の第13遠征隊(MEU)が同月10日にカリフォルニア州サンディエゴを出港したと報じました。目的地は朝鮮半島が含まれる西太平洋で、ARGは最新鋭ステルス戦闘機F35Bを保有しているばかりか、海兵隊の第211海兵戦闘攻撃飛行大隊も配属されています。“斬首作戦”の決行能力を有する特殊部隊を、一気にヘリコプターで北朝鮮に送り込むことができるのです」(軍事ジャーナリスト)
北朝鮮は国際社会が積み上げてきた経済制裁を破る行動を見せている。日本の防衛省は7月4日、北朝鮮船籍タンカーが6月29日に東シナ海の公海上で、船籍不明の船と物資を積み替える「瀬取り」を行った疑いがあると発表。また7月12日には、米国連代表部が「北朝鮮は今年の1月から5月の間、瀬取りで石油精製品を少なくとも89回密輸した」と指摘する文書を国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に提出した。
そればかりか同月25日、ポンペオ米国務長官は上院外交委員会の公聴会で、北朝鮮が現在も核物質の生産を続けていることを明らかにした。「完全な非核化」の履行で合意した6月の米朝首脳会談後、米メディアが指摘していた北朝鮮の核開発継続をポンペオ長官が初めて認めたのだ。
「北朝鮮は北西部の寧辺に使用済み核燃料再処理とウラン濃縮の秘密施設を持ち、平壌郊外にある同様の施設に至っては活動停止の兆候が確認されていません。むしろ通常運転していると米韓当局は判断しているようです。北は海外メディアを招待し、北東部豊渓里にある核実験場の坑道を爆破して閉鎖を誇示し、また北西部の東倉里にあるミサイル実験場でも廃棄の動きをわざとらしく見せていますが、いずれも国際社会の検証は行われていないことから、見せ掛けのショーだという疑いは晴れていません」(安全保障アナリスト)
北朝鮮は“信頼醸成アピール”だけは熱心だ。休戦協定締結65周年の7月27日、朝鮮戦争(1950〜'53年)で捕虜となったり行方不明になったりした後に死亡した米兵の遺骨55柱を米国側に返還した。米朝首脳会談の合意に沿った措置だが、協定締結の記念日に合わせることで終戦宣言問題をおおっぴらに掲げる狙いがミエミエだ。
「北の金英哲党副委員長が、7月上旬に三度目の訪朝をしたポンペオ長官に対し、次の非核化措置を取る条件として朝鮮戦争の終結宣言に応じるよう求めていたと複数の米朝関係筋が明らかにしています。戦争状態が終われば米国は軍事力を使った強硬策を取りにくくなり、北の体制保証につながるばかりか、将来的な在韓米軍削減による米韓同盟の弱体化まで一気に狙えるからです」(国際ジャーナリスト)
このように北朝鮮は非核化には逆行する一方、朝鮮戦争の終戦宣言には相当に執着している。国営メディアなどを通じ米国に繰り返し終戦宣言に応じるよう促しているほか、中朝両国の外務次官がこの問題について話し合っている。朝鮮戦争の終戦宣言には、北朝鮮を緩衝地帯として残したい中国も全く異論はない。
「米中貿易戦争の勃発で英哲氏を頭目に頂く軍強硬派はシメタと思ったことでしょう。『中国さえ味方に付けば非核化の必要はない』と金正恩委員長の尻をたたいた可能性があります」(同)
拘束中の3人の米国人を釈放したり、核・ミサイル関連施設の閉鎖などや遺骨を返還したことは、北朝鮮お得意の“信頼醸成アピール”と言える。北側は、重要なイベントの前後には必ずと言っていいほどこうした行動を取ってきた。
「ところが、こうしたアピールは最終的には“信頼破壊”に終わっています。残る遺骨だって交渉カードにしながら米朝交渉に臨む可能性だってあります。まず北にやらせることは、自国の核関連施設に関する冒頭申告書を提示させることです。どこに核施設があり、何基の核兵器を保有しているかなどの非核化への基本的情報を早急に明らかにさせなければなりません」(前出・安全保障アナリスト)
トランプ大統領の十八番“手のひら返し”からすると、ARG&MEUの西太平洋急派は、中朝への「調子に乗るなよ」との警告かもしれない。
「トランプ大統領が昨年4月に中国の習近平国家主席と初めて会った後『私は彼が大好きだ!』と宣言しました。ところが、1年がすぎたあたりから『習はウソつきだ』と気付き、米中貿易戦争を仕掛けました。先頃、初めての米朝会談で正恩委員長と会ったときも『彼はいい人だ』と世界中に拡散しましたが、今は不信感を募らせ、対北禁油を言い出し始めました。この手のひら返し癖からすると、来る11月の中間選挙以降、また北朝鮮問題がガチンコ勝負の様相を呈してくるのではないでしょうか」(軍事アナリスト)
年内に核施設への査察を受け入れるなど北側に具体的な動きがない限り、トランプ大統領がシビレを切らし、『正恩の野郎、会談で非核化を約束したのにウソをつきやがった』と吼えるのは目に見えている。