A:一般的には、歩幅を大きくして、踵から着地するのが正しい歩き方だといわれますが、実はこの歩き方をすることによって体を痛めることがあります。
そもそも日本人は農耕民族で、従来は少し前傾姿勢で歩いていました。踵ではなく、足の裏全体で同時に着地するか、あるいは、つま先から着地する歩き方だったのです。
踵から着地する歩き方は本来、硬い靴を履くヨーロッパの習慣です。姿勢は、背を伸ばした乗馬の姿勢です。明治維新以降、ヨーロッパの歩き方が軍隊や学校教育に取り入れられ、普及してきました。
●踵着地歩行は日本人に合わない
以来、100年以上経っていますが、踵から着地する歩き方は日本人にはあまり適していません。
踵からの着地はまず、それだけで衝撃が一点に集中するので、体への負担が大きくなってしまいます。硬いコンクリートの上を、踵から着地する歩き方で歩き続けると、膝、股関節、腰などに大きな力が一気にかかり、それらの箇所に弊害が生じます。
代表的なのが膝で、膝に痛みが生じ、やがて変形性膝関節症を発症します。膝の故障の影響は股関節や腰に及び、股関節痛や腰痛を引き起こすことになります。
また、靴を履かずに硬いフローリングなどで踵から着地する歩行を続ける場合も、膝、股関節、腰に大きな力が一気にかかることがあり、それが体を痛めてしまいます。
地面の固さや靴の踵の関係を考えて歩かないと、一律に踵着地が正しいということにはなりませんから注意してください。
膝や腰などの整形的疾患で私のクリニックを受診された方には、まず歩いてもらって、歩き方をチェックします。真面目な性格の人ほど、言われたとおりに大股、踵着地を守るので、体に故障を引き起こします。
それを、歩幅を小さく、そして、足裏全体で着地するように心がけてもらいます。歩き方はすぐには完全には変わりませんが、足腰への負担がぐっと減ることが実感できます。それだけで痛みが改善する場合もあるのです。
お勧めするのは、まず後ろ向きに歩いてみて、それと同じ歩幅、速度で前へ歩いて下さい。これが習慣化すると膝、腰のストレスが変わってきて、膝や腰の痛みが自然に解消します。
今井一彰氏(みらいクリニック院長)
山口大学医学部卒業。東洋医学などさまざまな医療を駆使し、薬を使わずに体を治していくという独自の観点に立って治療を行う。日本初の靴下外来も設置。