「今回、アンタッチャブルだったFIFAの巨大な闇に切り込んだのは、先日、アフリカ系アメリカ人として初めて女性司法長官に任命されたロレッタ・リンチ氏ですが、各国協会は困惑しつつも、アメリカさん、よくやったと歓迎する声の方が強い。これを機会に全てのドス黒い膿を取り除き、クリーンでお金の掛からない組織に生まれ変わってほしい、というのが本音だからです」(日本サッカー協会関係者)
テロリストへの資金供与対策を強化するオバマ大統領は、司法長官に初の黒人女性を抜擢した。ハーバード大法科大学院卒のリンチ長官は国際的な金融犯罪に実績を持ち、大統領の期待に応え、次々に資金源を寸断してきた。
その多くの舞台になったのが、厳格な守秘義務をうたい文句にし、富裕層の資金を手厚く保護し続けてきたスイスの銀行だ。リンチ長官による隠し資産に伴う脱税口座の追及は厳しく、廃業に追い込まれたプライベートバンクは少なくない。
「新たなターゲットにしているのが、国際スポーツ競技の各連盟です。スイスにはFIFA、IOC(国際オリンピック委員会)をはじめ、65もの国際スポーツ競技連盟の本部がある。さして便利でもないチューリッヒに本部を構えるのは、資産隠し目的以外の何ものでもありません。大会招致やテレビ放映料の仲介による賄賂で得た“闇金”を隠し持つためです。これに自国に大口のスポンサーを数多く抱える米国司法当局が目を付け、スイスの銀行に脱税容疑で巨額の罰金を科し、それを看過する見返りに司法取引で顧客情報の提供を求めているのです。既に2002年の日韓W杯招致に関する資金の流れも入手しているといわれ、表面化するのは時間の問題。そうなったら日本の有力政治家、大手企業幹部、協会首脳の名前が出る可能性もある。当時のW杯招致関係者は、毎日のように米国司法当局の発表を報じる米有力紙を翻訳してもらい、目を凝らしていますよ」(大手広告代理店担当者)
FIFA首脳に捜査のメスが入ったのは5月27日。米国司法当局の要請を受けたスイスの司法当局が、理事会出席のためチューリッヒ入りしていたFIFAの副会長2人を含む7人を贈収賄容疑で逮捕した。真のターゲットは、同30日に行われたFIFA会長選で5選を目指したゼップ・ブラッター会長(スイス)にあり、立候補断念に持ち込むことにあったとされる。
しかし、ブラッター氏はこのケンカを受けて立つ戦術を選び、FIFA首脳の旧守派を味方に付けることで、ライバルで革新派のアリ・ビン・フセイン王子(ヨルダン)を下し、当選を果たした。これで安泰かとホッとしたのもつかの間、6月3日に突然辞任を表明。年末から来春の間に新たに会長選挙を行い、自身は身を引くというのだ。
「周辺の幹部連中が捜査対象者になったことで、このままでは自身にも及ぶと判断したのでしょう。中でも北中米カリブ海サッカー連盟のチャールズ・ブレイザー元事務局長が2010年開催地決定の際に賄賂をもらっていたことを認め、これで万事休す。しかし、そこは老獪な男。自ら司法取引を働きかけ、辞任を表明することで“疑惑”を2010年の南アフリカW杯招致までの問題にとどめようと画策したのでしょう」(全国紙運動部記者)