「仕掛け人は衣笠剛球団社長兼オーナー代行ですよ。衣笠社長は真中監督を『日大の後輩』とかわいがっており、かつて水面下で巨人を揺さぶった実績もあるんです。石川県の星稜高校OBでもあり、メジャー生き残りに苦しんでいた当時の松井秀喜氏を獲得しようともしました。松井サイドもグラついたと聞いています」(同)
衣笠社長は後輩の真中体制を盛り立てるつもり。大引、成瀬の獲得により、日本ハムとロッテにそれぞれプロテクト名簿を提出しなければならないが、その喪失を受け、巨人から主力戦力を引き抜く作戦だ。
「巨人が主力保護のプロテクト名簿を作ったら、チャンスに飢えた若手を堅実に狙い、若手がプロテクトされていたら、陽動作戦を兼ねてベテランを引き抜きます。相川がヤクルトを出た理由は24歳の中村悠平を正捕手に据える構想に憤ったからですが、経験豊富な相川がいなくなった代償は大きい。阿部を引き抜き、捕手と一塁手の両方で使う戦略も考えられます。ヤクルトが巨人の主力に目を付けた理由は、主砲バレンティンの故障が長引きそうだからなんです。将来の大砲候補である和田恋、2011年盗塁王の藤村大介、その他、中井大介、矢野謙次、大田泰示らにも目を付けているようです」(同)
阿部は9000万円ダウンの5億1000万円でサインしたが、ヤクルトはカネに糸目は付けないつもり。また、「最も危ない」と目されているのが高橋由伸だ。高橋は来季から兼任コーチとなる。'14年年俸は1億6000万円まで下がっており、バレンティンとの併用、代打の切り札という位置付けなら、十分戦力になる。まして高橋はドラフト当時、ヤクルト志望だった。「兼任コーチだから獲ってはいけない」という規則はなく、巨人と張り合って勝つには最高の陽動作戦ともなる。
「實松一成、加藤健といったベテランの控え捕手を狙ってくるとの情報もある。彼らのことを考えれば、他球団に行った方がチャンスも広がると思うが、捕手を同一リーグに移籍させた場合、巨人はバッテリー間のサインを総取っ替えしなければならない。プロテクト名簿の中身は非公開だが、どの球団も捕手は優先的に名簿入りさせる傾向がある」(前出・ベテラン記者)
言い換えれば、有望な若手と捕手、主力投手を優先的に名簿入りさせなければならないので、高額年俸のベテランは外さざるを得ないのだ。そうなれば高橋、阿部が名簿漏れする可能性は高く、巨人が被る痛手は避けられないと見るべきだろう。
「過去、FA選手を引き止めなかった球団は経営的に苦しく、これ以上、高額年俸を払えないという事情もありました。まさかヤクルトがここに来て、チーム補強費を惜しまない戦略に出るとは思いもしませんでした。相川に興味を示した時点で、巨人側は『人的補償を行使しない金銭補償のみを求めてくるだろう』と高をくくっていたようです。最悪、控え捕手を喪失するくらいだろう、と」(同)
ヤクルト側から見た場合だが、相川喪失により、支配下の捕手は6人となった。一、二軍を合わせ、捕手6人では頭数が足りなくなる。中村を正捕手に育てると言っても、サポート役は必要だ。實松、加藤の名前が出てくる理由もそこにあるが、こんな情報も聞かれた。
「阿部がかわいがっている後輩の中に、河野元貴、鬼屋敷正人の若手捕手がいます。彼らも名簿漏れする可能性があり、河野か鬼屋敷のどちらかを引き抜けば、捕手・阿部の配球を奪ったのと同じことになる。いずれにしてもヤクルトが欲しいのは、お客を呼べるビッグネーム。阿部、高橋、内海らが名簿漏れするか否かが、最初の確認事項でしょう」(同)
原巨人は本命だった金子を見限った時点で、「ついで」のようなFA補強はやめておくべきだったのかもしれない。取り返しのつかない大きな代償を被ることになったら、ファンの怒りも買いかねない。