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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 悲観派、楽観派それぞれの主張を徹底比較 NYで巻き起こる「田中将大論争」の真実

 ヤンキースの田中将大がふざまなピッチングを見せているため、ニューヨークでは田中に対する悲観論が噴出している。しかし、それ一色というわけではなく、スポーツメディアや論客の中には、過剰な心配は無用とする楽観論もある。
 田中将大を巡る両者の論争で特に意見の隔たりが大きいのは、以下の3点だ。

(1)球威が低下した理由
 悲観派は、ヒジの腱の部分断裂が完治しないまま投げているのが原因だと見ている。
 悲観派の急先鋒ペドロ・マルチネス(MLBコム解説者、レッドソックスの元エース)は「田中は65%くらいの状態で投げているように見える。レベル的にはマイナーから上がってきたばかりのルーキーより多少マシといった程度だ。その程度のピッチングしかできないのは、故障を引きずりながら投げているからだと思う」と語っている。
 これに対し、楽観派の一人であるFOXスポーツの解説者CJニカウスキーは、
 「データを見ると速球のスピードはそれほど落ちてない。落ちているのは速球の球威ではなく制球力だ。速球のコントロールミスが原因で打たれているのに、ヒジを痛めた前歴があるから、速球の威力が低下したと勘違いされている」と主張している。

(2)スプリッターで空振りを取れなくなった理由
 悲観派は、威力のある速球を高目に投げ込むことができなくなったことが最大の要因だと見ている。
 スプリッターは速球を高目に投げ込んで打者の目線を上げてから、低目に投げ込むと面白いように空振りを取れる。いまの田中は速球の威力が低下しているので、その打者の目線を上げるための速球を投げ込むことができない。ちょっとコントロールを間違うと一発を食う恐れがあるからだ。
 そのためスプリッターを単独で使うケースが多くなった。それだと打者は目線が上っていないので、バットに当てることができる。今季、空振りが激減しているのはこれによるものだ。
 スプリッターが機能しないのは、打者が振ってくれなくなったことも大きな要因になっている。悲観派のもう一人の旗頭であるカート・シリング(ESPN解説者、レッドソックスの元エース)は4月12日のヤンキース対レッドソックス戦で実況中継の解説を務めた際「田中将大は速球を投げるときとスプリッターを投げるときのアームアングル(腕を振り出す角度)がちょっと違う。レッドソックス打線はそのことに気が付いているから、スプリッターに手を出さないのかもしれない」と指摘している。
 これに対し楽観派は、打者がスプリッターに手を出さなくなったのは、今年は制球難で投げた瞬間にボール球とわかるケースが多いからで、リリースポイントがぶれなくなれば、威力を発揮しだすと見ている。

(3)トミージョン手術の必要性
 悲観派は、田中が今のようにヒジの状態がよくない中で投げ続けても、いい結果は得られないので、トミージョン手術を受けるべきだと主張している。それを声高に主張しているのがペドロ・マルチネスだ。
 ペドロは彼自身が肩を痛めて試行錯誤をした経験があるので、いま田中が「打たせて取るピッチング」を模索していることには一定の理解を示しながらも「長い目で見ればそれは無駄な努力なので、早くトミージョン手術を受けて球威を取り戻すことが、復活への近道だ」と語っている。
 それに対し楽観派は、田中のような10%程度の部分断裂はPRP療法(昨年田中が受けた治療法)で9割近くが治癒しているので、性急にトミージョン手術に走る必要はない。ヒジの状態は時間の経過とともに少しずつ良くなっていく可能性が高いので、焦りは禁物だと主張している。

 このように田中将大をめぐる論争は両者の主張に大きな隔たりがあるが、優勢なのは悲観派の方だ。こちら側には、ペドロ・マルチネスとシリングという超大物がいて「田中はシーズン中に投げられなくなる」「田中のトミージョン手術は時間の問題だ」といった並の解説者には言えないことをズバッと言ってのけるからだ。この2人は日本でもよく知られた存在なので、田中に関する大胆なご宣託が、日本のスポーツ紙に取り上げられることもある。
 ペドロが「田中のトミージョン手術は時間の問題だ」と予言していることを知れば、日本の田中将大ファンは心穏やかではいられないが、それを額面通りに受け取る必要はさらさらない。
 なぜならペドロとシリングが田中将大にシビアなご宣託を下す背景には、ヤンキース対レッドソックスの対立の構図が潜んでいるからだ。この2人はレ軍側の利益代表のような存在なので、ヤンキースのエースである田中将大に対しては、発言がシビアになる。だから発言を額面通りに受け取ってはいけないのだ。

 トミージョン手術は実際にはかなりリスクが高い。日本人投手では斎藤隆がトミージョン手術を拒否してPRP療法でヒジの部分断裂を克服し、42歳までメジャーのマウンドで投げ続けた。田中もできることなら、PRP療法だけで部分断裂を克服し、投手人生を全うして欲しいものである。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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