実は、以前から統合話に猛反発していたのが、日産上層部と経産省だった。
「経営統合は、一時、ゴーンチルドレンとも言われた西川廣人・日産社長も猛反発。今年上半期の世界新車販売台数では、日産・ルノーグループが’17年度世界1位の独VWを上回りトップに躍り出た。牽引役は日産。その日産と三菱自動車が仏企業にされてしまう事態に経産省が焦ったのです。そこで、ゴーン排除の動きに日産の一部幹部が中心で動き、背後で経産省が後ろ盾になったと目されている。その日産と経産省をつないだキーマンは、日産社外取締役で元経産審議官の豊田正和氏の名前が取り沙汰されている」(霞が関事情通)
日産は企業消滅危機、経産省は日本を代表する企業が仏企業に完全統合される国益損失から動いたともっぱら。そこで司法取引で罪軽減を条件に内部告発者を仕立て、ゴーンの約50億円の報酬隠し、海外の自宅設置・母親居宅費用を日産に出費させる、家族旅行代金・結婚費用の私的流用・姉への資金提供…などの資料をひっさげて東京地検に駆け込ませたという。
③司法と安倍政権
「東京地検特捜部のトップは森本宏部長。かつては福島県知事汚職、村上ファンド事件、猪瀬直樹都知事が辞任の契機となった徳洲会選挙違反事件などの捜査に関わっている。早くから“検察のエース”“将来の検事総長”と目され、昨年9月、特捜部長に就任した。しかし就任後、着手事件はリニア新幹線談合事件、文部科学省接待汚職事件などで、リニア事件はゼネコンの反発、文科省も接待のみで政界ルートには手が届かず仕舞い。2つの事件とも苦労していた」(司法記者)
そんな折、転がり込んできたのがゴーン案件だった。
「世界的にも屈指の経営者と評されるゴーン会長逮捕となれば、世界中に『東京地検特捜部』の名が響き渡る絶好の好機。しかも、自分が取り入れた司法取引も活かされるため、森本特捜はヤル気満々です。特捜部は世界的なルノーや名経営者、仏政府が相手でも徹底的に不正を洗い出す方針です。最終的には安倍官邸がお墨付きを出したからでしょう」(同)
安倍官邸が動いたと噂されるもう1つの流れで注目の動きがある。10月発足の第4次安倍改造内閣で法務相に「当選3回組」から初入閣、小泉進次郎氏を追い越し、大抜擢された山下貴司法務相の存在だ。
「彼は法務省出身。しかも、元東京地検特捜検事で防衛省汚職事件などを担当している。森本部長とは司法修習44期の同期。彼は安倍内閣が喫緊の目玉、外国人労働者新在留資格の創設で法律に明るいため大抜擢された半面、今回のゴーン事件が水面下にあったので安倍官邸が起用したとも囁かれている」(同)
④今後の懸念
ゴーン逮捕に海外では疑問視の声も強い。
「国策捜査批判に加え、ウォール・ストリート・ジャーナルは逮捕容疑の報酬額開示に、『不正確な証券取引所への申告は、通例、企業や監査役が責任を負うものだ』と言及。特別背任は会社に損失を与えようという明確な証拠が立証されないと有罪は難しい。海外の事務所も、仮に不動産購入分が申告されていなかったとしても“有罪に持ち込めるのか”の声もある。安倍VSマクロンの日仏対決は熾烈を極めそう」(全国紙外信部記者)
代理戦争ゴングは鳴った。