小説の一節の様な入り方だが、今回は好評だった3月22日号に続き、薄毛の治療最前線第2弾をお届けしよう。
なぜ髪が薄くなったり、髪の毛が少なくなるのか。遺伝? ストレス? もちろんそれもあるだろう。だが、もっと直接的な理由は、毛髪が成長しない、毛髪が抜ける、の両方だ。
前回のおさらいになるが、人の髪の寿命は約5〜6年。毛髪には毛周期というものがあり、早期成長期→中期成長期→後期成長期→退行期→休止期→脱毛というサイクルを繰り返す。
薄毛はこの毛周期が乱れ、髪が成長期になったにもかかわらず成長を止めてしまい、いきなり退行期や休止期に移行して脱毛するために起こる。つまり、生えた先から抜ける状態が薄毛だ。
なぜ成長期からすぐに休止期に移行し、髪が抜けるかを知りたいところだが、その理由は長く謎だった。だから頭部を叩いて刺激を与える、頭部の血行をよくするためにミノキシジル(血管拡張剤として開発された成分)入りの育毛剤を振りかける、生えてこないのなら植毛するといった“叩く・塗る・植える”の育毛3点セットの時代がずっと続いたわけだ。
しかし、最近、一つの要因が発見された。AGA(男性型脱毛症)には、男性ホルモンの一種DHT(5α-ジヒドロテストステロン)が大きく関与していることがわかったのである。このDHT、誰が名付けたか、脱毛ホルモンの異名を持つ。
発毛のしくみは、説明が厄介だが、ざっとこんなところ。毛髪の根元にある毛乳頭が、毛細血管から栄養を吸収することにより、毛母細胞が増殖・分化して成長することで毛髪が形作られるというわけ。
だが、脱毛ホルモンDHTは、その毛母細胞の機能を弱体化する働きがあることがわかる。ならばDHTの働きを阻害してやればよいとして考え出されたのが、フィナステリドという新しい薬である。
この薬によって、育毛を邪魔するDHTの働きは阻止されたかもしれないが、まだ問題は残った。成長期ならばともかく、退行期や休止期に移行した毛母細胞を元気づけるわけではないからだ。
そこで、薄毛治療の“直球”となるのが、再生医療研究に基づく治療法。ポリリン酸を用いて毛母細胞に直接働きかけ、活性化させるという方法だった。
再生医療の研究により、発毛には、発毛命令が必要であることがわかった。それがなければ毛髪を作る基礎となる毛乳頭が目を“覚まさない”のである。つまり、休止期の毛髪にいくら刺激や栄養を与えても、なかなか効果が表れにくいのだ。風呂で父親がやっていた薄毛対策は無駄だったといえる。
「発毛せよ」と命令する情報伝達物質の正体は、FGFと呼ばれるタンパク質。FGFの平均寿命は4〜5時間と非常に短い。その寿命を延ばし、安定した発毛命令を伝達させるには、何かしらの工夫が必要となってくる。