結果的には戦前の期待を裏切る形となったが、この登板によってファンの「大谷にメジャーリーグでプレーしてほしい」という思いは一層強まったという。スポーツ紙デスクが話す。
「大谷がリズムを崩したのは、2回1死一、三塁での広島・鈴木誠也の本盗がすべてでした。捕手の大野奨太が二塁へ送球し、それを大谷がカットするはずでしたが、タイミングが合わず、遊撃手の中島卓也が横っ跳びで捕球。この間に三塁走者の鈴木が生還し、シリーズ史上47年ぶりのホームスチールに。その年の王者を決める大舞台で、姑息なプレーはメジャーではまず考えられません。打たれた2本塁打にしても“2ボールのあとはすべて直球”という配給を読まれていたのが原因です。これが広島の野球といえばそれまでですが、165キロ投手の大谷に“騙し合い”は似合わない。カープ女子以外のファンはみな、実力と実力が真っ向勝負するメジャー並みのプレーを望んでいるのです」
思い出されるのが、王手をかけて臨んだパ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第5戦だ。この日、3番DHで出場していた大谷は、9回表にDHを解除して“スーパーリリーフ”で登板、セーブを挙げた。それも繰り出した全15球中、8球が163キロ以上で、うち3球が自己の持つ日本最速記録を更新する165キロ。さらにフォークボールは151キロを計測するなど、まさに異次元のピッチングをまざまざと見せつけた。
「この様子は、米国内でも大きく報じられました。165キロを投げられる投手は、いまのメジャーでもカブスの左腕チャップマンくらい。それを満足なウオーミングアップなしで立て続けに記録した『オオタニショウヘイ』の名は、米国中に知れ渡りました。いまポスティングにかければ、6、7年の複数年契約で年俸2500万〜3000万ドル(約26億円〜31億円)という分析記事も出ています。これは田中将大(ヤンキース)、前田健太(ドジャース)の契約を大幅に上回るものになります」(米駐在のスポーツライター)
しかし、FA資格未取得の大谷は、球団がポスティングシステムを容認するまで、日本ハムとの契約下に置かれている。今季年俸が2億円(推定)の大谷は、このオフ、最大の年俸増を勝ち取ったとしても4億円がリミットだろう。
ところが、大谷の場合、入団時に「日本一の立役者になれば、海外移籍を認める」という“密約”があったと言われる。
思い返せば、大谷は高校3年時、「米球界挑戦」を表明。これによって他球団が次々に手を引く中、日本ハムがお得意の強行指名を敢行。大谷入団にこぎつけられたのは、この密約が切り札になったというのだ。
その日本一が近づき、大慌てなのが日本ハムだ。戦力的にも興行的にも、大谷は来季も絶対に欠かせない。しかも来春には、ワールドベースボールクラシックが控えており、'20年東京五輪の野球をアピールする絶好のチャンスである。日本ハムばかりでなく、日本球界がこぞって大谷を必要としているのだ。
そこで浮上した折衷案が、「1年限定、年俸10億円」という来季の契約だという。
たとえ10億円を支払ったとしても、当初の来季年俸との差額は6億円程度。来オフに大谷をポスティングにかければ、日本ハムには20億円の譲渡金が入り元はとれる。
それらの計算の結果、来季1年だけチームに残留させるのがベストという結論に至ったわけだ。
大幅に前倒しして来オフのメジャー移籍を容認する背景には、日本ハムの新球場建設問題も絡む。これまで、本拠地は札幌市を前提に北海道大学構内案、真駒内案、札幌駅前案、札幌ドーム残留案が検討されたが、いずれも札幌市などとの折り合いがつかず暗礁に乗り上げていた。
しかし、ここにきて札幌市に隣接する北広島市への移転が有力になり、'23年までに、きたひろしま総合運動公園に球場を建設する方針が固まった。
そのお披露目に目玉として大谷が必要。戻ってきてもらうためにも、早期にメジャーに送り出した方がいいというのが、球団側の本音のようだ。
とにかく、日本シリーズ優勝が絶対条件。開幕戦の大谷のピッチングは栗山英樹監督の要望で「2戦目以降のデータ収集に身を呈した」との情報もある。
次回の登板こそ、二刀流の本領発揮となるか。