もう一片の不安もない。アントニオバローズが逆襲の態勢をきっちり整えてきた。
「間隔は詰まっているけど、この中間はむしろ上積みを感じる。いい状態でダービーを迎えられそうだよ」と立花助手は笑みを浮かべた。
狂いかけた歯車を見事に戻した。皐月賞は9着。アンライバルドの激走の後ろで、見せ場すらつくれずに終わった。
しかし、これには大きな敗因が2つある。ひとつは体調。弥生賞を右肩ハ行で取り消し、皐月賞は何とか間に合った程度の仕上がりだった。そこへ追い討ちをかけるように、手続きの問題から中山に直接入厩できなかった。栗東から美浦、そして中山へ。経験の浅い3歳馬にとって直前の2度の輸送がハンデになったことは想像に難くない。
前走のプリンシパルSにしても、ダービーの除外を避けるための強行軍。地力だけで2着した。
「何としても権利を確定させたかった。完調手前でよく走ってくれた」
その後は反動も心配されたが、中2週の期間で陣営も目を見張る急上昇を見せている。21日の1週前追い切りは栗東DWコースで6F78秒2、ラスト1F12秒2の猛時計。さらに、27日には坂路で800メートル52秒2、12秒5と素晴らしい動きを見せた。不安があればできる攻め馬ではない。
スケールの大きな走りに、早くから素質はGI級と評価されていた。だが、物見をする幼さが災いし、軌道に乗るまで時間がかかった。重賞初Vとなったシンザン記念でも道中は若さ丸出し。だが、そんな課題もダービーが近づくにつれ、解消されたという。
「だいぶまじめに走るようになったね。左回りも2度目だし、直線で馬体を並べるような形になればアンライバルドにも負けない。勝負根性はシンザン並みだから」
立花助手も期待のほどをそう表現した。
武田調教師はシンザンを育てた故・武田文吾元調教師の息子。騎手時代には実際に騎乗したこともある。ゆかりある45年前の3冠馬の記憶がよみがえるほど、アントニオへの期待は日々高まっている。