『ブラックアウト』(上・下)(マルク・エルスベルグ/猪股和夫・竹之内悦子=訳 角川文庫 各820円)
昨年、ドイツのフェルディナント・フォン・シーラッハの書いた短篇集『犯罪』邦訳版が出版され、大いに話題を読んだことは記憶に新しい。作者は元々弁護士であり、現実に起きた事件をもとにしていくつもの犯罪物語を作り出したのだった。
本書『ブラックアウト』の原書は今年2012年3月にドイツの出版社から刊行された。作者自身はオーストリアの首都ウイーンの生まれであるが、ドイツ・ミステリーの仲間に加えていいだろう。『犯罪』とは違って文庫本で上下巻、約千ページになる大長篇である。タイプは違えど、やはり傑作であるのは間違いない。従来、翻訳ミステリーといえばアメリカ、イギリス中心であったが、最近は北欧など他の言語圏の作品も活発に日本で出版されるようになった。
本書はとにかくスケールの大きなパニック小説である。イタリアとスウェーデンで誰も予期しなかった大停電が発生する。それはたちまちヨーロッパ全域へ広がっていく。しかも原子力発電所で異常が発生する。季節は冬。人々は生き延びるために必死の行動を模索し始めるが…。
作者は明らかに東日本大震災で起こった原発事故から刺激を受けて本書を書いたのだ。停電の原因を突き止めるためにITスペシャリストが活躍するエンターテインメントでもあるが、確実に真に迫っている。今現在の日本人が読むべき本なのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『あなたのまわりの「コミュ障」な人たち』(姜昌勲/ディスカヴァー携書シリーズ・1050円)
「好きなことしかしない」「空気が読めない」など、多様化し急増するコミュニケーション障害=「コミュ障」な人たちを診てきた精神科医の著者が、彼らの行動を具体例を挙げて解説。その対処法も紹介している。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
ビジネス関連書籍の売れ筋ランキングを見ると、「読書力」「読書術」「速読法」などのテーマが目立つ。雑誌にもあった。『THE21』(PHP研究所/550円)だ。
9月号の特集テーマは、「仕事力が高まる本の読み方」。小説から始まりセールス・マニュアル、経営学や成功体験談に至るまで、識者が推薦する書籍がズラリと誌面に並んでいる。
単にオススメ書籍を紹介するだけではない。「どうやって読むか?」を主眼に置いている。「成功談だけでなく、失敗談に注目する」「簡単な本から始めてステップアップ」「全部覚えようとせず、まず7割理解」など、ビジネスに役立つ“読み方”がポイント。つまり、実践的な読書法を解説した特集である。
対象読者は、おそらく会社で部下を持つ管理職だろう。さらに一歩先へと出世できるか、生き残りの“ふるい”にかけられている世代だ。
読書を糧に実績を上げようと意気込む、熾烈な競争社会に生きるビジネスマンたちの姿が透けてくる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意