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復興への起爆剤となるか… JR九州株式上場“ななつ星”の悲願

 カラフルな車両と丁寧なおもてなしで、コアな鉄道ファンだけでなく、多くの一般客の「乗ってみたい」という気持ちを生み出し、ここ数年、利用者数を増加させているJR九州。3カ月前の熊本地震では大きな被害に見舞われたが、悲願の上場に向けた動きは着々と進められ、去る6月30日に東京証券取引所に上場の本申請を提出した。
 「東証の審査が順当に進めば10月中旬頃には上場が実現されることになり、先日のLINEに続く今年の大型上場銘柄として注目されています。何よりもJR九州の上場は、九州・熊本の復興のシンボルになると期待を持って見られています」(証券会社担当者)

 4月14日に震度7を観測するとてつもない大揺れで始まった熊本地震。回数は少なくなってきたものの、7月末となった現在も余震は収まっていない。この地震は九州全体の交通機関にも多大な被害をもたらし、発生直後にはJR九州の在来線全線と九州新幹線の運転を見合わせた。熊本駅から総合車両所に向かっていた回送列車6輌すべての車輪が脱輪するなどし、熊本県内の在来線では鹿児島本線や豊肥本線などさまざまな路線が土砂崩れなどによって運休した。JR九州が発表した見通しでは、熊本地震の影響による売り上げ減や被害額は計約175億円に上るという。

 そんなJR九州だが、熊本地震が発生する以前から株式の上場に向けた動きを活発化させていた。青柳俊彦社長は「地震の影響はあったが、本年度は黒字を確保できる。スケジュールに変更はない」と、5月20日に2016〜'18年度の中期経営計画と同時にメッセージを発し、上場への強い意欲を示すことを忘れなかった。JR九州が上場すれば、本州を三分割して生まれたJR東日本、東海、西日本以外のいわゆる“三島会社(JR北海道、四国、九州)”のJR上場は初となることもあり、経営陣の上場に対する思い入れは強く、まさしく悲願である。
 「JR九州は1987年4月に国鉄分割民営化で九州地区の担当会社として発足したものであり、全国6地域に分かれた鉄道・運輸事業会社の中では4位の売上規模にあります。経営面では子会社40社および関連会社4社でグループを形成し、運輸サービスの他、建設や不動産、流通、外食、ホテル経営などの各事業を展開していますが、かねてから本業の鉄道事業において採算を確保できていないことが、上場に対しての長年のネックとなっていました」(鉄道ジャーナリスト)

 そこで、前期末に民営化時に国から受けていた経営安定基金約3877億円を取り崩し、九州新幹線の設備などを保有する独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」からの新幹線貸付料2205億円を一括前払い、また、併せて800億円の借入金の一括返済を行った。これにより基金の運用益はなくなり、鉄道事業は大幅な赤字となるものの、鉄道関連の資産価値が目減りするため5268億円の固定資産を12億円までに減損処理し、2016年3月期に特別損失として計上。今期以降は圧縮した資産価値で減価償却費を算定するために、鉄道事業のコストを大幅に減らすことが可能になった。
 この結果、今期は地震の被害額を考慮しても約200億円以上の営業黒字を見込めるとし、課題の鉄道事業の黒字化もメドが立ったことで、上場申請への後押しとなったのだ。

 まさに会計の“ウルトラC”を使い悲願の上場に向けて動き出しているJR九州。一方で、上場に対して不安の声がないわけではない。ある識者は「従来受けていた事業用固定資産の減免措置は、上場会社には適用されなくなる可能性がある。これらを見通した経営計画を立てなければならず、東海道新幹線や山手線などのドル箱路線を持たないJR九州は、常に新たな発想と斬新なアイデアで顧客のハートをつかみ続けなければならない。この点ではすでに上場しているJRグループとは違うビジネスモデルを展開する必要がある」と述べる。
 また別の識者は「上場企業となると、株主から経営の効率化を求められることは当然となり、不採算路線の撤廃などは避けることができない。JR九州の在来線は不採算路線が多く、在来線住民からは切り捨てに対する心配の声が出ています」という上場のマイナスの影響も指摘する。

 今年5月に開かれたグループ企業の社長会で、青柳社長は「復興に向け『元気に! 九州』をテーマにさまざまな取り組みを展開したい」と語り、熊本地震をバネにしてさらなる飛躍を誓った。復興のシンボルとなるであろう「上場企業JR九州」が、公共機関として利用者を置いてきぼりにしない経営を果たせるかどうか、多くの人が期待と不安を抱き見守っている。

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