『ピート・タウンゼンド自伝 フー・アイ・アム』
(ピート・タウンゼンド/森田義信=訳/河出書房新社 3,990円)
1965年にデビューしたイギリスのロック・バンド、ザ・フーは1969年にオペラのようなストーリー性を持つ2枚組アルバム『トミー』を発表して以降、英米でビートルス、ローリング・ストーンズと並ぶ偉大な存在として評価されるようになった。しかし日本では長いこと人気がなかった。オペラ的アプローチを構築できる知性や繊細さを持っていながら、ライヴ・ステージでは楽器を破壊して暴力性を発揮するという多面性を音楽ジャーナリズムがきちんと把握できず、うまく紹介できなかったことが要因の一つだと思う。しかし1990年代半ば、ベスト曲を集めた優れたCDやライヴ・ビデオの発売を機に、ようやく日本でもその多面性こそ唯一無二のクリエイティヴな個性であると理解されるようになった。
本書はザ・フーのリーダーであり、ほとんどの楽曲を作ってきたギタリスト、ピート・タウンゼンドの自伝である。彼は1945年生まれなので70歳近い年齢だ。子供時代からごく最近までを克明に振り返っている。どういう家庭環境で育ったのか、どんな音楽に影響を受けたのか、そしてロック・スターの地位を維持するため、いかに苦悩してきたのか。
繊細で狂気にあふれた肖像は凄絶だが、多くの人から支持されるだろう普遍性も感じられる。なぜなら人は皆、多面的な生き物だからだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『中島知子写真集 幕間〜makuai〜』(講談社・3,300円)
元オセロの中島知子が魅せた衝撃の初ヌード写真集。話題の書、ビッグダディの元妻著『ハダカの美奈子』映画化で、主役の美奈子役を務めることが決まり、女優業を本格始動する。美しく熟れた裸身に思わず洗脳されてしまいそうだ!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
「90年目突入! 記念特大号!」と表紙にうたった『子供の科学』(誠文堂新光社/730円)は“KoKa”(子科)の愛称で親しまれており、創刊は戦前にまでさかのぼる歴史ある雑誌だ。
子供向けの科学雑誌は、かつてさまざまな付録で人気を博したが、少子化や本離れが加速したことから現在は少ない。そんな中、戦前から「科学の入り口を提供する」という変わらぬ姿勢で発行し続けている。
最新号では「元素周期表」をクリアファイルに印刷した付録が面白い。元素周期表とは、周期率と呼ばれる規則に従って性質の似た元素記号(たとえばH=水素)を配列した表のこと。
“?マーク”が頭に浮かぶかもしれないが、1869年に考案され、科学者にとっては基本中の基本だそうだ。
また、NHKで放送され大好評だった『ダイオウイカ』も特集。丁寧なイラストと写真で解説した謎の生物のカラーページは、童心に帰れてワクワクする。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意