『朽ちないサクラ』 柚月裕子 徳間書店 1600円(本体価格)
おおむね人は社会全体とのつながりを求め生きているので、流行を完全に無視はできない。しかし一方で、自分なりの個性を発揮したい、という気持ちも持つ。
エンターテインメント分野に関わっている表現者は、こういう二面性を常に意識しているはずだ。例えば作家であれば、読者の厳しい目に背を向けるわけにはいかない。時代遅れというレッテルはファン離れに直結するが、あまり流行に乗り過ぎて作品を発表していると節操がない、信念がない、と評価される。
柚月裕子は二面性に対してかなり敏感な作家の一人だろう。現在、テレビで警察ドラマが頻繁に放映され、本屋では警察小説が平積みになっている。振り返ると、もともとミステリー好きの人にとって警察はおなじみの存在であった。犯罪を取り扱うストーリーなのだから当然だろう。ただし主人公が私立探偵のときには脇に回るので、ミステリーすなわち警察小説、とストレートに捉える人は少数派だったはずだ。しかし1998年に横山秀夫が短篇集『陰の季節』を刊行したころからこのジャンルが注目を集めるようになった。管理部門所属など捜査の第一線には立っていない警察官を主役として描く作風を新鮮に感じる読者が増えた。それが今の流行につながった。
2009年にデビューした柚月裕子の場合は、弁護士、検事など警官以外の犯罪に関わる人物を主人公にして個性を発揮してきた。職業の選び方にセンスを感じる。そして本書『朽ちないサクラ』では、また新しい試みをしている。警察勤務の女性が主人公であるが、彼女は広報の県民安全相談係所属。マスコミと接する機会が多い仕事だ。新聞記者の親友が殺され、独自の調査を始める。第一線の刑事ではないから、迷い迷いの調査だ。この苦悩の描き方がいい。単に流行に乗っているわけではないのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
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(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)