ヒルマンは日ハムでの実績が評価されて'08年にロイヤルズの監督に栄転したが、結果を残せず2年半でクビ。その後はドジャースのベンチコーチ(データ分析や作戦を担当)を経て、今季はアストロズのベンチコーチを務めている。
日本のメディアでヒルマンがDeNA新監督の有力候補と報じられると、アストロズはヒルマンに「面接許可」を与えると発表した。
大リーグでの監督の選考は、まず他球団で評判の高いコーチ、マイナーの監督、育成責任者、メジャーの監督経験者などから候補者を5、6人選ぶことから始め、次に候補者の所属する球団に「面接許可」を取ったうえで、全員を呼んで一人一人GMや球団幹部が面接を行なう。それによって2、3人に絞り込み、さらに長時間の面接を行って新監督が決まるのである。
そのためアストロズも、ヒルマンがDeNA球団から面接に呼ばれると思って事前に発表したのだ。
メジャー球団の監督がこのような方式で選ばれるのは、指導者としての資質や能力は選手時代の実績とは無関係で、実際に会って口頭試問しないと分からないという考え方が根底にあるからだ。そのためスター選手を育てた実績は問われるが、本人が元スター選手である必要はまったくない。
実際30球団の監督の中にはメジャーでのプレー経験のない監督が8人もいる。元スター選手の監督も4人いるが、その中に有能な者はおらず、2大監督と呼ばれるカブスのマドン監督とオリオールズのショーウォルター監督はともにメジャー経験はない。ワールドシリーズに進出したメッツのコリンズ監督(元オリックス監督)も同様である。
日米では監督の待遇にも大きな差がある。日本では監督がチームの顔とみなされ、チームと関係の深い元スター選手が就任することが多い。そのため年俸は多くが1億円以上と、主力選手並みに高い。それに対しメジャーの監督は統率力や管理能力を認められた専門職に過ぎないので、監督経験3年目までは年俸が平均60〜70万ドル(7200〜8400万円)と、新人選手の年俸(50万ドル)といくらも違わない。全監督の年俸の平均値も130万ドル(1.6億円)にすぎず、選手の平均年俸(425万ドル=5.1億円)の3分の1に満たないのだ。
そのため日本で監督を務めたあとメジャーの監督に“栄転”したヒルマン、コリンズ、元ロッテのバレンタインらは、総じて年俸がダウンしている。バレンタインはロッテ時代の年俸が350万ドル(当時のレートで3.5〜4.2億円)だったが、'12年にレッドソックス監督に就任した時は250万ドルだった。ヒルマンも日ハムからロイヤルズの監督に栄転したことで年俸が130万ドルから70万ドルに半減した。コリンズ監督も今季の年俸は100万ドル(1.2億円)。オリックス時代は基本年俸が150万ドルだったので、これも大幅ダウンだ。
コリンズ監督は今季、低迷が続いたメッツをワールドシリーズに進出させ、ナ・リーグの最優秀監督に選出される可能性が高くなっているが、それが実現したとしても年俸は20〜30万ドル上がる程度で、オリックス時代を上回ることはないだろう。
帰米後、メジャー球団の監督に就任できずマイナーの監督に甘んじる場合は悲惨だ。元広島、楽天監督のブラウンは日本でも年俸が60万ドル程度の低年俸だったが、ブルージェイズの3A監督時代('10〜'13)は年俸が6〜8万ドル(720〜960万円)だった。その4年間、毎年好成績を出しながら金銭的に全く報われないため、バカバカしくなり'13年限りで辞めてしまった。本人の希望は日本球団の監督に復帰することで、売り込みに来日したこともあったが、外国人監督志向は過去のものになっており実現の気配はない。
日本のメジャーファンの中には、松井秀喜とイチローが、日本ではなくメジャー球団の監督になってほしいと願っている人もいるが、それは見果てぬ夢に終わるだろう。いくら選手として実績があっても、メジャーではコーチやマイナーの監督としてある程度実績を積まないと、監督への道は開けないからだ。その点、日本のプロ野球は現役時代の実績と看板がものをいう。指導者としての資質を問われることなく監督に迎えてくれて2〜3億円の年俸まで保証されるのだから、いくらメジャー志向が強い彼らでも、こんなおいしい話は放っておかないだろう。
スポーツジャーナリスト・友成那智
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ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。