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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 逆算で作られたエネルギー計画

 7月16日に政府が2030年の電源構成の目標となる「エネルギーミックス」を正式決定した。石油火力が3%、石炭火力が26%、天然ガス火力27%、再生可能エネルギー22〜24%、原子力20〜22%となった。一見、無味乾燥な電源構成の数字には、複雑な思惑が見え隠れしている。

 エネルギーミックスの最大の目標は、火力発電の比率を現状の88%から56%へ引き下げることだ。火力発電は、燃料コストが高い。福島第一原発の事故後、家庭用の電力料金は25%、企業向けの電気料金は38%も上昇した。これを政府は2〜5%引き下げようとしている。もう一つの課題は、二酸化炭素の排出量だ。こちらも原発事故後に25%も増えてしまった。それを今回の計画で34%減らそうというのだ。
 問題はその手段だ。燃料コストの問題でも、二酸化炭素削減の問題でも、その主役を担うのは原子力発電だ。確かに既存の原発を活用すれば、原子力発電のコストは低い。また、原発は二酸化炭素を排出しない。
 しかし、福島第一原発の事故のあと、政府は脱原発の方向性を決めている。自民党政権も、原発依存度をできる限り小さくしていくとしていた。二酸化炭素を減らそうと考えるなら、原発ではなく、再生可能エネルギーでもよいはずだ。政府もその批判は十分気付いていたに違いない。だからこそ、原子力の比率を20〜22%と、再生可能エネルギーの22〜24%よりも、わずかに下回らせたのだろう。
 ただ、再生可能エネルギーの比率をもっと上げることは十分可能だったはずだ。例えば、再生可能エネルギーのなかで、太陽光発電の電源構成は7%という目標になっているが、この10年で8倍にも増えているのだから、もっと電源構成を高めることができる。しかし、太陽光発電は、「国民のコスト負担が許容可能な範囲で最大限導入する」というのが今回の方針で、今後は抑制的に進めようというのだ。

 エネルギーミックスの推計の前提をみると、おかしな想定が行われていることが分かる。2030年度の太陽光発電の買い取り単価が22円に設定されているのだ。事業用の太陽光発電の買い取り価格は、初年度の'12年度が40円、'13年度が36円、'14年度が32円、そして今年度が27円と急速に下がっている。2030年度に22円などということはあり得ない。
 私は、太陽光発電の買い取り単価を現時点で22円に下げても、普及を進めることは可能だと思う。それは、昨年度まで行われていた太陽光発電投資の即時償却を認めてやればよいからだ。即時償却というのは、太陽光発電の設備を減価償却するのではなく、その期の経費として全額引き落とせる制度だ。この制度を適用すると、利益の出すぎている企業が、利益を先送りするためにどんどん投資してくれるのだ。単なる先送りだから、財政負担もない。
 それをせずに太陽光発電の普及を抑制しようというのは、原発をどうしても動かしたいという思惑があるからだろう。原子力の電源構成を20〜22%にするためには、全国に43基ある稼働可能な原発をすべて運転する必要がある。つまり、今回のエネルギーミックスは、原発のフル稼働かつ老朽原発の延命を前提として作られているのだ。

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