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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 原油価格下落は嵐の予兆

 原油価格の下落が止まらない。1バレル=40ドルが下限と言われた原油価格が、1月12日には米国産標準油種のWTIが29.93ドルと、12年11カ月ぶりの安値となった。3月末までには、25ドルを割り込むとの観測も出始めた。この影響で、激戦区のガソリンスタンドでは、1リットル=100円を割り込む店まで登場している。
 原油安は、物価の安定を通じて庶民の暮らしを支えるが、私は手放しでは喜べないと思っている。原油安が安定的に続くとは到底思えないからだ。

 これほどの原油安が起きた原因は、OPEC(石油輸出国機構)のなかで減産の合意ができないからだ。ただ、なぜ合意できないのかについては諸説ある。最も直接的な見方は、サウジアラビアとイランが国交断絶に至るほどの対立をしていて、減産の話し合いができないというものだ。それはそうなのだが、もう一段階の深読みがある。サウジの背後に米国がいるというのだ。米国が、対立する産油国のロシアの経済に打撃を与えるために、サウジに減産しないように働きかけているというのだ。
 どちらの説が正しいのかは分からないが、サウジとイランの対立の背後には米露の対立があるのだから、どちらでも同じことだ。米国は自国のシェールオイルがコスト割れの価格でも輸出を継続しているのだから、ロシアを封じ込めようとする意図は明らかだろう。
 ただ、そうなると対立は根深く、簡単には解消しない。市場がそう見ているからこそ、原油価格が下がり続けているのだ。

 ただ、米露の代理戦争は、一歩間違えば本当の戦争につながる。もしそうなれば、日本経済は深刻なダメージが避けられない。サウジアラビアは、日本の最大の原油の輸入先で、イランは第6位の輸入先だ。しかも、サウジとイランの間にはペルシャ湾があり、その出口がホルムズ海峡だ。ここを通って輸入先第2位のUAE、第3位のカタール、第5位のクウェートの原油が日本に運ばれてくる。ホルムズ海峡が封鎖されたら、日本の石油の8割が調達できなくなってしまうのだ。
 それは、石油価格が上昇するという種類のショックではなく、そもそも物理的に石油が手に入らなくなるというショックを意味する。イメージとしては、東日本大震災の直後に東日本の太平洋側で起きたようなパニックの再来だ。しかも、一度戦争になれば、それが長期化するリスクは高い。

 だから、いまこそ政府は、石油備蓄を思い切って強化するとともに、サウジとイランの対立が戦争に発展しないように、外交努力を集中すべきだろう。
 米国は、サウジとの長年の友好関係に加えて、イランとも核合意を結んだばかりだから、どちらか片方の肩を持つことができない。だから、両国の仲介役となることを明確に否定している。米国は動けないのだ。
 ここで日本が出て行って、両国の緊張緩和を実現できたら、日本は世界から大きな評価を得られるだろう。積極的平和主義というのは、米国と一緒になって軍事的な圧力をかけることではなく、戦争を未然に防ぐことを中心にすべきだ。

 原油安による国民生活の改善は、薄氷の上の安定にすぎない。日本経済が氷の海に転落する前に、いまこそ行動すべきだろう。

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