西荻窪は、東京都心から西へしばらく向かった先にある。江戸時代には、江戸へ炭荷らを運ぶための街道や、江戸市中へ飲料水を供給するための上水道などが西荻窪周辺でも整備された。しかし、長らく「郊外」という言葉が使われたように、西荻窪の街は都心とは違った雰囲気を持っている。現在でも、小さな商店会が肩を寄せ合い、路地に入れば昭和の風情を残す街並みが残っている。西荻窪のイベントとしては、骨董(こっとう)品や、こけし、人形らに関係する催しが有名だ。また、サブカルの街として知られる高円寺や、おしゃれの街・吉祥寺などに近く、演劇活動やミニコミ誌の発行なども盛んという。
西荻窪の街を歩いて最初に感じたことは、細長い道や狭い道が入り組んでいることだ。車も通るがガードレールがない所も多い。都心の街でよく見かける、待ち合わせの目印になるような大きな交差点や、公園、高層の複合商業ビルなどは、駅周辺にはなかった。
歩きはじめのうちは、急ぎ足で通り過ぎてしまえば風景を忘れてしまうような街並みだと感じたが、歩調をゆるめると、小さなギャラリーや、喫茶店、小物を扱う店などがたくさんあった。なかには、店先にござをしいて商品を並べる古美術店や、ブックカフェなどもあった。ドアを開放している店も多く、店内をのぞくと、ゆったりとした時間が流れているように感じた。西荻窪在住者によると、飲食店では顧客に食後のコーヒーまで楽しんでもらうようなサービスをすることが多く、気軽に入った雑貨屋で長い時間を過ごすこともあるという。都心とは違った、独特の時間の流れ方と、それを好む人たちの街という印象を受けた。
肝心の乙女化についてだが、ここ数か月の間で、若い女の子たちに人気の飲食店や、てづくり雑貨やアンティークを扱うギャラリーなどが複数、開店していて、ひそかな人気を集めていた。
街には街ごとの風情がある。何かのきっかけで全国から人が詰めかけたり、街おこしやイベント効果で“何々の聖地”などと呼ばれる場所もあるが、西荻窪は、そういった外部的な要因というよりは、街自体が持っている空気や時間の流れ方が、自然と人を集めているように感じた。
今回の調査では、乙女化の実態まではつかめなかったが、引き続き、成り行きに注目したい。(竹内みちまろ)